2023.06.25 22:00
ダーウィニズムを超えて 12
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生物学にとどまらず、社会問題、政治問題などさまざまな分野に大きな影響を与えてきた進化論。現代の自然科学も、神の創造や目的論を排除することによって混迷を深めています。
そんな科学時代に新しい神観を提示し、科学の統一を目指します。
統一思想研究院 小山田秀生・監修/大谷明史・著
第一章 進化論を超えて
―新創造論の提唱―
(六)人間の誕生
◯進化論
今からおよそ600万年~500万年前、森からサバンナへと進出したチンパンジーが二足歩行するようになった。やがて道具を使うようになって手が発達した。次に脳が発達することにより、道具の質が向上し、言葉が生まれ、文化を発明するようになった。
◯創造論
6000年前に、地上の生き物は、1週間の6日目に、それぞれ種類に従って土から造られた。人間アダム(男性)も土のちりで造られた。そして命の息を吹き入れられて、アダムは生きたものとなった。次に神はアダムを眠らせて、アダムのあばら骨一つを抜き取って、エバ(女性)を造られた。
◯新創造論
神は低次の存在から始めて、ロゴスと創造力を投入しながら次第に高次の生物を創造された。すなわち、類人猿を通過しながら原人を造られ、やがて肉体としては現代人と同じホモ・サピエンスとしてのヒトが造られた。そして選ばれたヒトの一カップルから生まれた子供に霊人体が与えられて、アダムとエバが創造されたのである。
キリスト教の創造論は、神があたかも魔法使いのように、土のちりから生物と人間を創造されたというものであって、現代科学の立場からは到底理解し難いものである。一方、現代の人類学者たちは、ほとんどが進化論者であるが、彼らの見解によれば、人類の進化のあらましは、次のようである。
今からおよそ600万~500万年前に、ヒトとチンパンジーの系統が分岐した。二足歩行する類人猿、アウストラロピテクスが登場したのである。およそ250万年前、道具(石器)を使う最初のホモ属としてのホモ・ハビリスが登場した。それから170万~150万年前に、ハンドアックスと呼ぶ、より洗練された石器を使用するホモ・エレクトスが現れた。そして、およそ60万~50万年前、脳の大きさが急速に拡大し、火を使用し、道具を製作する原始的なホモ・サピエンスが現れた。
1978年、ハワイ大学のレベッカ・キャン(Rebecca Cann)は、カリフォルニア大学バークレー校のウィルソン(A. Wilson)、ストーンキング(M. Stoneking)と共同で、米国に住むアフリカ系、欧州系、中東系、アジア系の妊婦、147人から胎盤をもらい、ミトコンドリアDNAを抽出して調べた。細胞の中のミトコンドリアDNAは、両親の遺伝子の混合物である核のDNAとは違い、母親だけを介して伝わり、突然変異でしか変化しないことが知られている。彼らの調査の結果、現代人のミトコンドリアDNAのもっている変異は、20万年前にアフリカにいた一人の女性のミトコンドリアDNAに由来するという結論に達したのであった。彼女は「ミトコンドリア・イヴ」と名づけられた。
さらに、その後のY染色体分析によると、「ミトコンドリア・イヴ」に相対する男性、「アフリカン・アダム」が20万~5万年前にアフリカに存在していたことが明らかになったという(*25)。Y染色体は男性だけを通じて遺伝されるものである。このような事実から見るとき、20万年前から5万年前の間に現代人とほぼ同じ肉体をもったヒト(ホモ・サピエンス)が登場したといえよう。
そして5万年前、「人類の文化の曙(あけぼの)」、「創造的爆発」、「偉大なる飛躍」、「社会的ビッグバン」とも言うべき、人類の夜明けが始まったのである(*26)。フランスのショーヴェ洞窟(Chauve Cave)の壁画は、「先史時代のレオナルド・ダ・ヴィンチのような芸術家(*27)」が描いた、見事なものであるという。ニューヨーク大学のホワイト(Randall White)によれば、彼ら(クロマニョン人)は「神経機能面の能力としては月に行ける状態にあった(*28)」という。しかし、このような人類の進化の説明に対しては、次のような大きな謎がある。
(1)なぜ類人猿が二足歩行するようになったのか?
森で生活していた類人猿が、なぜ二足歩行するようになったのか、大きな謎である。人類学者のクライン(Richard G Klein)とエドガー(Blake Edgar)も、次のように述べている。
地上で生活する類人猿が二足で歩く利点とは何だろうか。……なぜ二足歩行かについて、新たな説明が今なお待たれている。……二足歩行の第一の利点は何か。この問題の決定的結論はいつまでたっても出そうにない。しかし、二足歩行が重要であったことは確かだ(*29)。
実際、チンパンジーの骨格とヒトの骨格を比べてみると、全面的に大きく異なっている。チンパンジーが森から出てきても、ナックルウォーキングという前かがみの歩行をするだけであって、物を運んだり、背伸びをしているうちに、骨格が全面的に大きく変わって、二足歩行に適した構造になるということは考えられない。ヒトの骨格の設計図(デザイン)が入らなければ、安定した直立の二足歩行は不可能である。
(2)なぜ類人猿の脳が急速に大きくなったのか?
クライン、エドガーが「180万~60万年前、脳のサイズは現代人平均の65パーセントあたりでかなり安定していたが、その後間もなく、同比90パーセントくらいまで増大した。……60万年前のこの脳拡張も安定期を揺るがす一大事件となっただろう(*30)」と語っているように、脳の急速な拡大はヒトの進化における大事件であった。しかし脳が急速に大きくなった原因に関しては、全く分かっていない。生化学者のジェラルド・エーデルマン(Gerald M. Edelman)も、そのことを「古生物学、人類学、考古学の深くて大きい未解決の問題である(*31)」と言っている。
ところでヒトの脳とホモ・ハビリスやホモ・エレクトスの脳とは大きさだけでなく、構造も大きく異なっている。したがって、脳がただ大きくなればよいというものでもない。実際、ゾウやクジラのように、人間の脳より大きな脳をもつ動物もいるが、彼らには人間のような知性は見られない。ホモ・ハビリスやホモ・エレクトスが狩猟をしたり、石器をつくったりしているうちに、大きくなるだけでなく、精巧なヒトの脳が自然にできるというようなことはありえない。
(3)5万年前に「人類の文化の曙」が起きた原因は何か?
5万年前に起きたといわれる文化的ビッグバンも大きな謎に包まれている。それに関して、クライン、エドガーは「この第四の事件(5万年前)がいかにラディカルで重要な意味をもつかは遺物から明らかだが、しかし何がきっかけでこの変化に拍車がかかったかは何も分からない(*32)」と言い、さらに「ヒト進化史最大の難問である『曙』そのものについて考えるべき時が来た。『曙』とは結局なんだったのか。これは論議の分かれるところだ。今後も当分はひとつの答えに決着できそうにない(*33)」と言っている。
5万年くらい前に何かが起きたのだが、研究者たちにとって、「その変遷をもたらした原因については、推測するほかない(*34)」のである。文化の曙によってレオナルド・ダ・ヴィンチのような芸術家が現れたこと、彼らは月に行けるほどの知的な可能性をもっていたということは、何を意味するのであろうか。
人間の脳をコンピューターに例えてみよう。コンピューターが科学者の知恵をしぼって設計されているように、脳という高級なコンピューターができるためには、偉大な知性によって設計されなくてはならない。またコンピューターが高度な機能を発揮するためには、高級なハードに高級なソフトがインプットされなくてはならない。人間の脳には言語の文法のような高級なソフトが入っている。しかし、人類学者のイアン・タッターソル(Ian Tattersall)が言うように、「ヒトの脳がこれほど見事に言語能力や象徴的な思考能力を獲得した理由もわかっていない(*35)」のである。そのような高級なソフトも偉大な知性によって設計されたものと見るしかない。
さらにコンピューターを操作するには、高度な知性をもったオペレーターが必要なように、脳というコンピューターを動かすには、オペレーターとしての心的存在(霊人体)が必要なのである。結局、5万年前に文化的ビッグバンを起こしたヒトは、単に肉体だけの動物的存在ではありえない。動物の脳には高度なソフトが入っていないのみならず、有能なオペレーターもいないのである。
したがって統一思想の立場から見るとき、20万年前~5万年前のある時点で、肉体としてのヒトが造られ、およそ5万年前に、霊(霊人体)を吹き込まれた人間、すなわちアダムとエバが創造されたと見ることができよう。霊人体は高級なソフトを駆使する、高級なオペレーターであった。
聖書には、土のちりからアダムが造られたと書かれているが、土とは、文字どおりの土ではなくて、広く万物を意味している。したがって神はまず、万物である類人猿を造り、彼らを土台にして、肉体としてのヒトを創造されたのであり、それから一組のヒトの夫婦を選んで、彼らから生まれた子供に霊人体を与えて、人間アダムとエバが創造されたのである。さらにアダムのあばら骨一本からエバが造られたとされているが、やはり文字どおりのあばら骨一本からエバが造られたのではない。あばら骨とは、骨組み、設計図を意味している。したがってアダムを造るのと同様な原型、公式でエバは造られたということである。
*25 リチャード・クライン、ブレイク・エドガー著、鈴木淑美訳『5万年前に人類に何が起きたか?』新書館、2004年、199頁。
*26 同上、286頁。
*27 同上、282頁。
*28 カール・ジンマー、渡辺政隆訳『進化大全』光文社、2004年、410頁。
*29 リチャード・クライン、ブレイク・エドガー『5万年前に人類に何が起きたか?』60~61頁。
*30 同上、154頁。
*31 ジェラルド・エーデルマン、金子隆芳訳『脳から心へ』新曜社、1994年、57頁。
*32 リチャード・クライン、ブレイク・エドガー『5万年前に人類に何が起きたか?』24~25頁。
*33 同上、287~288頁。
*34 カール・ジンマー『進化大全』409~410頁。
*35 イアン・タッターソル、秋岡史訳『サルと人の進化論』原書房、1999年、258頁。
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次回は、「男と女(アダムとエバ)」をお届けします。