総合相談室 Q&A 第6回
子供の不登校をどのように理解し、対応したらいいですか③

回答:臨床心理士・大知 勇治

 この内容は、『TODAY'S WORLD JAPAN(トゥデイズ・ワールド ジャパン)』2012年12月号の「総合相談室Q&A」から抜粋したものです。「総合相談室Q&A」は、動画版(U-ONE TV/全16回)でもご覧いただくことができます。

Q9 次に、第二期の引きこもり期の対応についてお話しください。

A9 この時期の特徴は、以下のとおりです。
 外に出たがらない。友達と会いたがらない。学校の先生にも会いたがらない。勉強をしない。手伝いをしない。家の中でも家族とあまり交流を持ちたがらない。わがままばかり言う。
 状態が良い場合には、友人と遊んだり、塾には行ったり、学校の先生と会うことを嫌がらなかったり、家の手伝いを一生懸命にしたり、勉強をしたりという子供もいます。中には、放課後の部活には行くということもあります。逆に、ひどい場合には、昼夜逆転し、部屋から全く出てこない、家庭内暴力で大変といった状態になることもあります。
 この時期は、エネルギーがたまって回復期に入るまで、ゆっくり待ってあげることが大切です。精神疾患や発達障害がない場合には、適切に対応していけばエネルギーを回復して、次のステップに踏み出すようになります。ですから、親が焦らず、不安や怒りに巻き込まれず、丁寧に見守ってあげることが大切です。ある意味では、親の自分自身との闘いです。
 この時期は、学校や勉強のことを言わないことです。いわゆる登校刺激はしないということです。この時期に学校のことを言っても、回復を遅らせるだけです。ゆっくり休ませてあげながら、一緒に楽しめることをしていきましょう。ゲームばかりしているのなら、一緒にゲームを楽しむ。音楽ばかり聴いていたら、一緒に同じ音楽を聴いてみる。一緒にコンサートに行ってみるのも良いかもしれません。マンガが好きなら、同じマンガを読んで、その子が感じている世界を共有してみましょう。一緒にテレビを見るのでもかまいません。
 とにかく、できるだけ時間と空間を共にして、一緒に楽しく過ごしてください。その際、決して親の興味や関心に子供を引き込もうとしないことです。そして、子供の話をひたすら聴いてあげてください。
 引きこもって、親との時間や空間の共有を拒否するのならば、待ってあげるしかありません。

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Q10 それでは、親が積極的にすべきことは何でしょうか?

A10 悪くなるには悪くなる理由があり、良くなるには良くなる理由があります。ですから、待つときにも、良くなる理由を作ってあげながら待ってあげることが重要です。
 では、どのようにしたら良くなる理由が作れるのでしょうか? それは、心の風呂桶(おけ)理論でお伝えした時間主管と空間主管とおいしい食事、この三つを家庭の中で実践してみてください。その際に、子供には要求しないことです。昼夜逆転していようと、部屋の中がゴミだらけになっていようと、子供のことは気にしないで、まずは親から、時間主管と空間主管とおいしい食事を実践していくことです。そうすれば、家の雰囲気が変わってきて、その結果、引きこもっている子供にも変化が現れてきます。
 この時期は、ゲームばかりしていたり、テレビばかり見ていることが多いものです。なぜ、ゲームにはまるのでしょうか? それは、不安を紛らわせるためです。ゲームをしている間はゲームに集中できるので、余計なことを考えずに、現実のつらさをその瞬間は忘れることができるのです。
 お子さんが学校に行かなくて不安だというお母さんは、ぜひ一度ゲームをやってみてください。ゲームに集中している間は、お子さんのことやその他の嫌なことなど忘れて、ゲームの世界に浸ることができるでしょう。そうした体験をすれば、お子さんがゲームばかりする気持ちが分かると思います。
 話がずれてしまいましたが、この第二期は、とにかく休ませて、待ってあげることだと思ってください。ただし、わがままを聞く必要はありません。ダメなものはダメと伝えるしかありません。あれを買え、これを買えと言ってきても、買ってあげる必要はありません。あるいは、あれしろ、これしろと言っても、全部をしてあげる必要はありません。何かをしてあげても、それで満たされることはなく、さらに要求がエスカレートしていくだけです。
 ただし、ここで注意していただきたいのは、わがままに対して怒らないことです。私の本(『氏族伝道の心理学』光言社刊)の中でも書きましたが、怒りは破壊衝動ですから、相手の心を傷つけるだけです。怒らずに言いましょう。難しいことではありません。「欲しいのは分かるけど、それは買えないなぁ……」と優しく言ってあげればいいのです。それでも言うことを聞かない場合は、放っておきましょう。
 一方、甘えてきたときには、できる限りこたえて、いっぱい甘えさせてあげてください。具体的には、身体接触をできるだけたくさんしてあげることです。子供が求めてくるならば、手を握る、体をなでてあげる、抱き締めてあげるといったことはたくさんしてあげてください。そして、話をしてくるときには、できるだけ聞いてあげてください。甘やかし過ぎということはありません。甘やかしてわがままになるのではなく、甘えが足りなくてわがままになるのです。甘えさせ過ぎという言葉はないと思ってください。
 ここでポイントになることは、甘えとわがままをきちんと区別することです。わがままを聞くことと、甘えさせることの区別がついてない人がいます。そうした人は、わがままを聞くことを甘えさせることだと思い、甘えさせることは良くないと考えてしまうのです。この違いをきちんと区別して、甘えはOK、わがままはダメと覚えておいてください。(続く)

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 次回は、第7回「子供の不登校をどのように理解し、対応したらいいですか④」をお届けします。