総合相談室 Q&A 第5回
子供の不登校をどのように理解し、対応したらいいですか②

回答:臨床心理士・大知 勇治

 この内容は、『TODAY'S WORLD JAPAN(トゥデイズ・ワールド ジャパン)』2012年11月号の「総合相談室Q&A」から抜粋したものです。「総合相談室Q&A」は、動画版(U-ONE TV/全16回)でもご覧いただくことができます。

Q7 不登校になってから学校復帰に至るまでの一連の流れについてお聞かせください。

A7 下図を見てください。縦の軸は登校に必要なエネルギーを、横軸は時間を示します。真ん中の線は登校線と呼ばれていますが、登校できるかどうかのエネルギーの境界線です。この線よりもエネルギーが多く、上であれば、登校でき、下であれば、登校できない状態になります。


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 不登校になる場合、だんだんエネルギーが低下してきて、登校線上をうろうろするようになります。この時期は、朝からグズグズして遅刻が多くなったり、学校に行ったり行けなかったりします。ここで、頑張りきれなくなると、ドンとエネルギーが落ち、学校に行けなくなります。それだけではなく、友達とも会いたくない、家から出られない、ひどい場合には引きこもって部屋から出てこなくなることもあります。
 しかし、それでも少しずつエネルギーを溜(た)めていって、エネルギー量が増えてくると、元気が出てきて、外に出られたり、友達と会えるようになったり、学校のことも気になるようになってきます。そして、エネルギーが登校線上にまで達すれば、学校に行くようになります。最初は行ったり行かなかったりしながらようすを見て、やがて以前のように登校できるようになります。
 不登校は大きく四つの時期に分けられます。第一期は行き渋り期、第二期は引きこもり期、第三期は回復期、第四期は様子見期です。子供がどの時期にいるかによって対応は違ってきます。

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Q8 では、それぞれの時期に、どのように対応すればいいのでしょうか?

A8 第一期の行き渋り期の特徴は、学校に完全に行かなくなるわけではなく、朝からグズグズしていて遅刻をするようになったり、休み明けや体育のある日など、特定の日や曜日に学校を休むようになることです。学校に行っても教室に入れずに保健室で過ごすようになったり、体調不良で早退することが増えてきたりもします。
 この時期は、心の風呂桶(おけ)理論(本誌2012年天暦5月号114ページ)で言えば、ストレスが風呂桶からあふれるかどうかのスレスレにある状態です。
 この時期は、ゆっくりと子供の気持ちを聞いてあげることが大切です。無理をさせるのは良くありません。朝から行き渋るようであれば、学校に行かせることよりも、気持ちを聞くことを優先してあげてください。状態によっては、一日か二日、学校を休ませて、一緒にゆっくりと、楽しいことをするのもいいかもしれません。
 「休ませると、そのままずっと学校に行かなくなるのではないかと思い、心配です」と言うお母さんもいらっしゃいます。
 しかし、「休んでいいよ」と言って学校に行かなくなる場合は、無理に行かせたとしても、早かれ遅かれ、行けなくなります。「休んでいいよ」の一言は、休む原因ではなく、きっかけにすぎません。むしろ、その一言で学校に行かなくなるのであれば、早く休ませてあげたほうが、後で良い場合が多いと思います。
 一番良くないのは、無理に行かせて、限界が来て休んでしまうパターンです。ぎりぎりまで我慢して、「結局ダメだ」と休むのは、エネルギーをぎりぎりまで使い果たしてしまったということですから、回復が遅くなります。
 またこの場合、子供は、「親は自分のことを全然分かってくれていない」と感じるでしょう。反対に、ぎりぎりになる前に、親から「とてもきつそうだから、無理をしないで、学校を休んだらいいよ」と言ってもらえると、エネルギーに余力があるうちに休めますから、後の回復が早くなります。そして何よりも、「お父さんやお母さんは、僕の気持ちを分かってくれていたんだ。僕のことを心配して大切に思ってくれているんだ」と感じるようになります。こうした親に対する信頼感が、早い回復へとつながっていきます。
 この時期は、学校の先生と親との見方に食い違いが出ることもあります。家では学校に行きたがらずにグズグズしていても、学校ではそんなようすは全くなく、元気で楽しそうにしているということが少なからずあります。
 なぜこのような認識の違いが起こるのでしょうか? それは、一番エネルギーが必要なのは、登校する時だからです。車も一番ガソリンを食うのは発車する時です。一定の速度で走っているときは、それほどガソリンは食いません。同様に、子供にとっても学校に行く時が最もエネルギーが必要なので、朝、学校に行く前が一番グズグズするのです。ですから、いくら学校で元気にしていても、家で学校に行きたがらないようすが見られたら、丁寧に対応してあげてください。また学校の先生にも、そうした家でのようすを伝えて、注意して見守ってもらうよう、話をしておきましょう。
 この時期に適切な対応をすれば、本格的な不登校になることなく、元気を回復して学校に行けるようになります。しかし、この時期に適切な対応ができないと、残っていたエネルギーを使い果たして、第二期の本格的な不登校になってしまいます。

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 次回は、第6回「子供の不登校をどのように理解し、対応したらいいですか③」をお届けします。