2018.06.09 22:00
総合相談室 Q&A 第2回
二世の心の問題に
どう対応したらいいですか
回答:臨床心理士・大知 勇治
この内容は、『TODAY'S WORLD JAPAN(トゥデイズ・ワールド ジャパン)』2012年7月号の「総合相談室Q&A」から抜粋したものです。「総合相談室Q&A」は、動画版(U-ONE TV/全16回)でもご覧いただくことができます。
Q1 二世の心の問題に、親はどのように対応していけばいいのでしょうか?
A1 二世の問題と一口に言いますが、その内容はさまざまです。不登校、イジメ、非行、家出など、二世だけではなく、この世の中でも親が困っている問題はたくさんあります。
まず、子供たちの問題の背景には、大きく二つの要因が考えられます。一つは心理的問題、いわゆる心の問題、もう一つは器質的な問題です。器質的な問題というのは、生まれつき持っている先天的な問題です。
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Q2「器質的な問題」とは、具体的にはどういうことなのでしょうか?
A2 いわゆる障害と呼ばれているものです。身体障害は、身体の問題なので分かりやすく、知的障害も中度や重度の場合は早いうちに分かると思います。しかし、軽度の知的障害や発達障害の場合には気づかれにくく、小学校高学年や中学生になってから気づかれることも少なくありません。
ですから、親は心理的問題だと思っていても、実は器質的問題が背景にあったということもよくあります。
特に最近、教育現場で注目を集めているのが、発達障害です。発達障害の中には、学習障害、注意欠陥・多動性障害、広汎(こうはん)性発達障害などが含まれます。アスペルガー症候群や自閉性障害(自閉症)は、広汎性発達障害に含まれます。発達障害は、脳の中枢神経系の何らかの機能不全によるものと考えられていますので、基本的には育て方の問題ではありません。
発達障害の発現率は思いのほか高いということです。今から10年ほど前に文部科学省が全国の小中学校を対象にサンプリング調査をしました。その結果、通常学級に在籍している児童・生徒の中で、発達障害が疑われる割合は、6.3パーセントでした。これは40人学級に2~3人いるという割合です。中学校の不登校の発現率が2.74パーセント(平成22年度)であることを考えると、その2~3倍ですから、発達障害を有する児童生徒の割合がいかに高いかということを理解していただけると思います。
Q3 今回は、心理的な問題について、少しお話しいただけますか。
A3 では、心の風呂桶(おけ)理論をご紹介しましょう。これは、私が心の問題の説明に使うもので、私が考えて命名しました。
私のところに相談に来る人たちには、「心の中に風呂桶があると考えてください」とお話ししています。親に対しても、二世に対しても、同じ話をします。普通、風呂桶にはお湯を溜(た)めるのですが、心の風呂桶にはお湯の代わりにストレスを溜めます。
生活の中にはいろいろなストレスがありますよね。学校では、勉強、友達関係、試験、嫌な先生がいることもありますし、家庭では、お父さんやお母さんの小言や兄弟げんか、あと二世の場合は教会に行くことだったり、あれしちゃダメとかこれしちゃダメとか言われて、普通の子供たちにはないストレスもたくさんあります。
そうしたストレスが、心の風呂桶に溜まっていきます。風呂桶にお湯が溜まるみたいに、心の風呂桶の中にストレスが溜まっていくわけです。
ところで、普通の風呂桶には栓があって、栓を抜くとお湯がジャーッて流れていきますね。同じように、心の風呂桶にも栓があって、それを抜くと溜まっていたストレスが流れていきます。
そのように、心の風呂桶も、ストレスを溜めては流し、溜めては流し、しています。そして、溜まる量よりも流せる量が多ければ、一時的に溜まってもストレスはあふれずに済みます。
でも、溜まる量が流れる量より多くなると、ストレスが残ってしまいます。それが少しずつ溜まっていき、最後はザパッとあふれてしまいます。こうしてあふれたものが心の問題から来る問題行動だと理解していただければいいでしょう。
こうして、ある二世は不登校になり、またある二世は教会に行かなくなり、あるいは引きこもったり、たばこやお酒にふけるようになったり、家に帰って来なくなったりします。それらの問題行動は、心の風呂桶のストレスがあふれた結果なのです。
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Q4 それらの問題を解決するためには、どう考えていけばいいのでしょうか。
A4 相談に来る父母はよく、「なぜこうした問題が起こったんでしょう?」と質問してきます。子供に対しても同じ質問をしますね。問題が起こった原因が分かれば、それを取り除くことによって問題も解決できるのではないかと考えるからです。
そうすると二世もいろいろ答えたりします。「友達とけんかして学校に行きたくなくなった」とか、「父ちゃんが怒ったからもう家には帰りたくない」とか。でもそれは単なるきっかけであって原因ではありません。それは、あふれる前の最後の一杯のストレスだったということです。
ですから、実際にけんかした友達と仲直りをしても学校に行けるようにはならず、お父さんが謝って怒らなくなっても家には帰ってきません。一番の原因は、ストレスがいっぱいになり、心の風呂桶からあふれてしまったということにあるのです。
また、問題行動はストレスがあふれた結果ですから、ただ問題行動を変えようとしてもうまくいきません。学校に行くように説得したり叱りつけても、学校に行けるようにはなりません。結果を変えるには原因を変えるしかないからです。
ですから問題行動を変えようとしたら、その原因である心の風呂桶のストレスを減らしていくしかありません。ですから、子供たちの心の風呂桶のストレスをどのように減らしていくかを考えていけばいいということになります。
そして、問題行動が起こらないようにしていくには、ストレスがあふれないように気をつけて、きちんと流れるようにしておくことが大切だということです。
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次回は、「二世の心の問題に、家庭ではどう対応したらいいですか」をお届けします。