総合相談室 Q&A 第3回
二世の心の問題に、家庭では
どう対応したらいいですか

回答:臨床心理士・大知 勇治

 この内容は、『TODAY'S WORLD JAPAN(トゥデイズ・ワールド ジャパン)』2012年7月号の「総合相談室Q&A」から抜粋したものです。「総合相談室Q&A」は、動画版(U-ONE TV/全16回)でもご覧いただくことができます。

Q1 前回、二世の心の問題を理解していく上で、心の風呂桶(おけ)理論を紹介していただきました。今回は、具体的な対応についてお話しください。

A1 入ってくるストレスを減らすことは簡単ではありません。ですから、どのように心を癒やしていってあげるかが大切です。
 心のケアというと、すぐに子供と対話をすることを考えがちです。しかし、子供ときちんと話ができるようであれば、それほど大きな問題は起こりません。話をする以前に、家庭の中でやっていくべきことがあります。それは癒やしの家庭をつくることです。

Q2 癒やしの家庭をつくるとは、どういうことですか?

A2 私は、癒やしの家庭をつくるために、最初に三つのことをしてくださいとお願いしています。「時間主管」「空間主管」「おいしい食事」の三つです。

 時間主管は、まずは生活のリズムがきちんとしていることです。そして、やるべきことはきちんとやり、余計なことに時間を使わないということです。
 私たちは、5分で済む用件の電話に30分も話していたり、メールを一つ送るだけなのにニュースを読んでしまったり、テレビをボーッと見ていたりと、無駄な時間が結構あります。そうした時間を削って、やるべきことをする時間に充てれば、もっと多くのことができるでしょう。
 空間主管とは、身の回りの整理整頓をすることです。身なりの清潔感なども含めていいと思います。周囲の人も自分自身も気持ち良く過ごせるような環境になっているかどうかです。
 時間主管と空間主管は、心身が健康なときは、それほど難しくありません。しかし、心身が疲れてきたり、病んでくると、うまくできなくなってきます。
 まずは朝、起きられなくなり、夜寝るのが遅くなっていきます。また食事時間が不規則になるなど、生活のリズムが崩れてきます。また、身の回りが片付かなくなってきます。そして、服装にも気を遣わなくなり、女性であれば化粧をしなくなったり、男性であればひげをそらなくなったりします。反対に、周囲が違和感をもつような派手な服装やケバケバしい化粧をするようになることもあります。

 時間主管ができている家庭は、家族全体の生活のリズムがきちんとできています。起床時間、朝食の時間、夕食の時間、就寝時間がきちんと守られています。
 空間主管がきちんとできている家庭は家の中に余計なものがなく、掃除が行き届いていて清潔で、すっきりと整理整頓されています。さらに、適度な装飾や気配りがされていて、居心地のいい空間をつくっています。

 ですから、心の問題の解決のためには、まず生活のリズムをきちんとつくることです。起床時間と就寝時間を守り、朝食と夕食の時間を守ってしっかりと食事を取るようにします。特に子供が小さいときには、こうした生活習慣がとても大切です。

 空間主管の基本は、まず物を捨てることでしょう。物が捨てられないのは、心の中の不安が原因であることが多いものです。本当に必要な物、使っている物以外は捨てることです。物を捨てることは気持ちを整理することにつながります。精神疾患の人は物を捨てられない人が多いです。

 そして、時間主管、空間主管と並んで大切なのが、おいしい食事です。おいしい食事を作るのには手間がかかります。この手間をかけることが大切なのです。
 以前、ある学校の先生が講演会で、「愛することとは手間をかけることです」と語っていました。家族のために食事を作る中で、母親の愛情が込められるのです。もちろん、教会活動や仕事で忙しく、毎日手間暇かける余裕がないという人もいらっしゃるでしょう。毎日が難しくても、せめて週に一回か二回は、手間暇かけて母親の愛情のこもった料理を食べさせてあげてください。

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Q3「時間主管」「空間主管」「おいしい食事」を実践するうえで、注意すべきことはありますか?

A3 時間主管と空間主管とおいしい食事、この三つができるようになれば、子供たちの心の問題は必ず良い方向に向かっていきます。
 ただ、一つ注意すべきことは、問題を抱えている本人に時間主管や空間主管を強要しないということです。不登校の子に「早く起きなさい」と言っても難しいでしょうし、うつの人に「部屋をきれいにしなさい」と言うのも無理なことです。問題を抱えている本人ではなく、ほかの家族がそれをしていくことが大切なのです。
 そうして、家族全体が癒やしの家族になり、家族全体の健康度を上げていけば、問題を抱えている本人も、少しずつ癒やされていくようになります。
 心理療法の中に、家族療法というやり方があります。普通、心理療法というのは、個人を対象に行います。アルコール依存のお父さんとか、うつ病のお母さんとか、不登校の子供、といったように、その個人を診断して治療の対象とします。
 しかし、家族療法はそうではありません。家族の中に心の問題を持つ人がいるならば、それは個人の問題ではなく、家族全体の問題だと考えます。家族全体の問題が、何らかの理由で、その中の一人に現れてきているという考え方です。
 ですから、家族療法においての治療対象は、個人ではなく、家族になるのです。

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 次回は、「子供の不登校をどのように理解し、対応したらいいですか①」をお届けします。