愛の知恵袋 112
愛のギブ・アンド・レシーブ

(APTF『真の家庭』233号[2018年3月]より)

松本 雄司(家庭問題トータルカウンセラー)

まずは、自分の心を開こう

 前号に続き、「心の通じ合う親密な夫婦になるためにはどうしたらよいか」というテーマです。その実現のためには、いくつかの代価を払う覚悟が必要だということは前回お話ししました。

 そこで、今回は話をもう一歩進めて、「具体的に、どうすればもっと親密な関係になることができるか」ということについて考えてみたいと思います。

 教育学博士の近藤裕氏は、「まず、自分の心を開くことから始めなければならない」と言っています。自分自身の長所も短所も率直に認めて、受け入れましょう。そして、自分の弱みや欠点を隠すためにまとっていた“心の鎧(よろい)”を脱いで見せることによって、初めて相手も安心して鎧を脱いだ姿で応じてくれるようになります。

 「愛」という漢字は、「受ける」という字の中に「心」という文字が迎え入れられています。つまり、“心を受け入れる”という意味があります。自分が相手の心の中に入ると同時に、相手を自分の心の中に受け入れるのです。

 「相手の心の中に入る」ということは、相手の気持ちを察し、理解し、共感するという事であり、「相手を自分の心の中に受け入れる」ということは、自分の心の内を相手に開示して、伝えることだと言ってもよいでしょう。

心のギブ・アンド・レシーブとは

 “親近性”すなわち、深く親密な関係を実現するには、以上のようにお互いが心を開くことから始まり、そのうえで、情緒的に相手と共存するための努力を重ねていく必要があります。

 「情緒的に共存するための努力」とは、「友情や愛情を深めるための行動をとる」ということですが、それは「与え合い、受け入れ合う」(ギブ・アンド・レシーブ)という行為を積み重ねていくことになります。

 ここで近藤氏が述べているのは、よく対人関係でも「ギブ・アンド・テイク」(与え、取る)という言葉が使われますが、「テイク」というのは「とる・奪う」という意味で、対価を前提として与えるという、あくまでも利害関係に基づく関係をさすものなので、愛の関係にはふさわしくないというのです。

 これでは「与えたから、返すのが当たり前」と、相手に要求する傾向になりがちであり、衝突を招きやすいからです。

 「愛は与えて忘れなさい」という名言があるように、愛の関係は、あくまでも自分が自発的に与えるものです。相手がそれを嬉しく感ずれば、感謝の気持ちでこちらに返してくれます。それをまた喜んで受け入れる…という授受の関係が愛の関係であるので、「ギブ・アンド・レシーブ」(与え、受け取る)というのが正しい関係だというわけです。

親密な夫婦になるための具体的な行動

 親密な関係になるためには、心の「ギブ・アンド・レシーブ」を重ねていけばよいということが分かりました。では、夫婦の関係においてはどのようなことをすればよいのでしょうか。

 具体的には、次のような9つの側面で、心のやり取りをしていく必要があります。

1. 知的生活…お互いの知り得た知識や情報を、感想と共に伝え合う。
2. 情緒生活…日常生活で生じた気持ち、喜怒哀楽の感情を分かち合う。
3. 性生活……心を主体にした体の触れ合いによって、愛情を確認し、深化させる。
4. 美的鑑賞生活…美しい自然や芸術などを一緒に鑑賞し、感動を分かち合う。
5. 創造及び労働活動…家事・子育て・仕事などで協力し合い、苦労を分かち合う。
6. レクリエーション活動…童心に返って一緒に遊び楽しむ中で、親近感を育む。
7. 精神生活…人生観・世界観・宗教的世界などについて語り合い、精神性を深める。
8. 危機経験…病気・事故・災害・失業などの危機に際し、共に助け合って克服する。
9. コミュニケーション…言葉のやり取りはもちろん、生活全般にわたっての交流を増やす。

 結婚した男女は、たった一度の人生を最後まで一緒に歩んでいく大切なパートナーです。

 勇気をもって自分の心を開放し、相手を受け入れ、相手の気持ちを理解し、共感してあげながら、自らの主体性をもって伴侶に愛情を注ぎ、日常生活の随所で親切にしてあげましょう。

 人間の“心”は、愛によってのみ、呼吸し、生き生きと躍動し、成長し、完成することができるものです。もし、愛を失えば、窒息し、もがき苦しんで、悲しみと共に死んでしまいます。

(参考資料:『夫と妻の心理学』近藤裕・著/創元社)