2020.04.03 22:00
愛の知恵袋 111
心の通じ合う夫婦になりたい
(APTF『真の家庭』232号[2018年2月]より)
松本 雄司(家庭問題トータルカウンセラー)
「もっと親密な夫婦になりたい」と言う妻たち
ある家庭学セミナーが終わった時、感想や意見を話し合う懇談会を持ちました。30代から60代の女性が10名ほど参加していましたので、自分が抱えている悩みや現在の心境を率直に話していただきました。その中で多くの婦人たちが共感したのは、一人の50代の婦人の話でした。
「私は結婚してもう25年になります。仲の良い夫婦になろうと思ってそれなりに努力をしてきました。お蔭で周りからは、『お似合いのカップルね!』とか、『素敵な夫婦ね!』とか言われているんですが、正直に言うと、私の心はまだ一度も満たされたことがないし、何かにつけてフッと、どうしようもない寂しさを感じることがあるんです…」
この婦人の率直な告白に、多くの婦人たちが、「私も!」「私も!」と共感を示したのです。
それを聞きながら私は、同様の感想を夫たちの集まりでも聞いたことを思い出していました。
私達日本人は、世間の目を気にして生きていることが多く、周りからいい夫婦とみられるようにつくろって暮らしていることが少なくありません。
その場合、表面上は平穏な関係ですが、夫婦ともに本当に心が通い合っているとは言い切れません。夫婦の間に様々な課題や問題があっても、それを話すことによってもっと大きな衝突になってしまうことを恐れて、どちらかが自分の感情を押し殺して、やり過ごしてしまっているからです。
“付き合い”と“お付き合い”
社会学者の加藤秀俊氏は、“付き合い”と“お付き合い”という二つの言葉で、人間同士の関係性の“深さ”について説明しています。
加藤氏によれば、私たちは数知れない多くの人達と知り合いになり、その知り合いとの“お付き合い”をする中で、本当の深い“付き合い”のできる人を求めている…というのです。
つまり、“お付き合い”は他人と知り合いになるための手段であり、その知り合いの中から、心を許せる本当の“付き合い”のできる人を捜し求めているというのです。
これは親子や友人や同僚など、全ての人間関係に通じることですが、最も親密な人間関係であるべき夫婦関係においても、そのまま当てはまります。
“夫婦”として形の上での“お付き合い”はしていても、人間としての本当の情の通い合った“付き合い”にまでは至っていないという夫婦は少なくありません。
深い関係に至るには“リスク”がある
長年、アメリカと日本で臨床カウンセリングに当たってこられた教育学博士の近藤裕(ひろし)氏は、結婚した多くの夫婦が心のふれ合う親密な関係になりたいと思っているけれども、なかなかできないでいることが多いと言っています。
その理由は、実は深い関係に至るためには、自分の本音や弱点を正直にさらけ出すというような、いくつかのリスクを冒さなければならないのですが、それを躊躇したり、面倒だと思ってしまうからだというのです。この壁をいかに越えるかが、最初の課題になります。
親密な関係に至るために、具体的に超えるべきリスクは、以下のような内容です。
1. 相手が自分に寄せる期待や願望に応えてあげる必要がある。
2. 事故や病気の時に対処するなど、相手に対する責任が重くなる。
3. 相手を理解するために、多くの精神的エネルギーを使う。
4. 自分の弱さなどもさらけ出し、心を裸にして付き合う必要がある。
5. 正直な付き合いが要求され、小細工が効かなくなる。
6. 自分が相手に利用されたりするかもしれないという心配もある。
7. 深く関わり合えば、ある程度、お互いの独立性が犠牲になる。
8. 語り合い、理解し合うために、多くの時間をかけねばならない。
9. その絆が深いほど、相手を失った時に大きな悲しみを受ける可能性がある。
私たちが目の前にいる家族や友人と、本当に心が通じ合う深い関係になろうとすれば、以上のような代価を払わなければならないというのです。誰でもためらいが生じるのは当然です。
それでも、やはり私たちは本物の幸せを実感するために深い関係を築きたいし、さらにまた、人生の目的である人格の成長と完成のためにも、それをやり遂げなければなりません。
では、一体どうしたら心の通じ合うような親密な関係を築き上げていけるのでしょうか。心がふれ合う心理状態のことを“親近性”と言います。それを得るためには、前記のリスクは覚悟できたとして、さらに何をすればよいのかということについては、次号でお話ししたいと思います。
(参考資料:『夫と妻の心理学』近藤裕・著/創元社)