家族の絆づくり 112
「前向きな心」に導く会話の工夫

ナビゲーター:阿部 美樹

「選択させる質問」で本音を引き出す

 会話の中で、ささいな工夫をすることで新しい知恵や意欲が湧いてくることがあります。

 前向きな心に導く会話にはどのような特徴があるでしょうか?

 例えば、「どうしたら良いのか分からない」と悩んで何も決断できない人がいたとしましょう。

 その人に対して「その悩みを解決したいですか? そのままの状態で良いですか? もっと悪くなっても良いですか?」と尋ねます。すると、どうしたら良いか全く分からない人でも「解決したいです」と答えることでしょう。本人の口で「解決したい!」と表現した瞬間、解決する方向に意識が集中します。

 「夫婦仲が悪くて離婚したい」という相談に対しても、「現実は離婚せざるを得ない状況ですが、心の底から離婚したいのですか? それともできれば仲良くしたいのですか?」と質問します。すると離婚と断言した人であっても、「できれば仲良くできればいいけど…」と変化する場合も多くあります。

 「解決の道はAの方法やBの方法がありますが、どちらか良いと思いますか?」と質問されると、まだ解決できるという実感がなくても、「A(あるいはB)の方が良いと思います」と答えてしまいます。

 このように、「選択させる質問」によって、曖昧な心が整理されたり、自分の本音に気付いたり、前向きな意欲が湧いてきたりすることがあります。

「仮定の質問」で前向きに導く

 さらには、「仮定の質問」をすることで前向きになりやすくなります。

 「その悩みが解決できるとしたら、どのようなことが有効でしょうか?」という解決できることを仮定した質問をします。すると、不思議にも解決できるという意識になって考え始めます。

 買い物の場面で悩んでいる人に対しては、「もし購入するとしたら、Aの商品が良いですか? Bの商品が良いですか?」と聞かれると、「Aの方ですかね…」と返答して、購入する自分をイメージするものです。

 離婚を考えて悩んでいる人に対して、「もし、その悩みが解決されて夫婦仲が良くなるとしたら、どのような夫婦関係を望みますか?」と質問します。すると、理想の夫婦像をイメージし始めます。

 さらに、「もし、夫婦仲が良くなったら、二人でやりたいこと、行きたい所はありますか?」と質問すると、相当心が前向きになる可能性があります。

 このような質問をする場合、相手を変えようとする姿勢ではなく、寄り添う姿勢が必要です。

 時には、「今すぐに、決断することは難しいですよね」とか、「すぐに決断しなくても良いですよ」と、迷いの気持ちを受け入れたり、あえて否定したりすることで、安心感を与えることもできることでしょう。