世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

韓国総選挙で与党圧勝
懸念される対日、対米関係

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、413日から19日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 トランプ大統領、世界保健機関(WHO)への拠出金停止指示(14日)。韓国総選挙で与党が圧勝(15日)。金日成主席の生誕記念日「太陽節」。行事大幅縮小か(15日)。日本政府、「緊急事態宣言」を全国拡大(16日)。中国湖北省公務員、省政府に謝罪求める訴訟起こす(18日)。中国政府、西沙、南沙諸島管轄の行政区設置を発表(18日)、などです。

 今回は、韓国総選挙を扱います。
 415日、韓国で第21代総選挙(議席は300)が行われました。次の大統領選挙にも影響を与える重要な選挙でした。

 結果は与党の歴史的圧勝。進歩派(「ともに民主党」など)190議席、保守派(「未来統合党」など)は110議席となりました。1987年の民主化以降で、現政権・与党勢力は単一政治勢力としては最多議席を得たことになります。これで与党は、憲法改正以外のあらゆる法案、政策を思いどおりにできるパワーを得ることとなりました。

 与党大勝の理由としてまず挙げられているのが、新型コロナウイルスへの対応です。他の選挙争点はかすんでしまいました。

 選挙戦最後の訴えで、「ともに民主党」の李洛淵選対委員長(前首相)は「国難を克服するためには、政権与党に安定した議席が必要だ」「180議席も見えてきた」と強調。
 最大野党の未来統合党の黄教安代表(元首相)は「与党180議席なら、この国の未来は絶望だ。絶対権力の暴走をけん制する力を与えてほしい」と述べ、土下座までして支持を訴えたのです。

 文在寅政権は、争点に急浮上した新型コロナウイルスを巡る危機管理能力が評価されました。投票日直前の一日当たりの新規感染者数も30人前後となり、さらに低所得者向けに一世帯最高100万ウォンの現金支給など次々に対応策を打ち出したのです。結果として、安全保障や経済政策、曺国元法相問題などの野党による政権批判はかすんでしまいました。

 中央日報は417日、一面トップの解説でソウル大政治学教授パク・ウォンホ氏の寄稿文を掲載しています。
 その内容は、選挙結果については政治学のいう「愛国結集効果」そのものであり、有権者はコロナ事態の中で国家の役割を再発見したと見るというものです。

 税金ばかりをとって規制ばかりをするのが国家だと思っていたら、ウイルスと戦って経済を立て直す役割を持った存在であることを知った、というものです。「国難克服」を叫んだ与党が勝ち、「政権批判」を主張した野党が敗北したというわけです。

 問題は総選挙後です。感染収束後(420日現在、新規感染者数が二桁台)、低迷続きの韓国経済、感染で一層悪化している現状に回復の道筋を付けることができるかどうか。選挙戦では雇用など国民の暮らしも争点にはなりましたが、コロナ対応が重視されてかき消されてしまいました。

 対日関係も心配です。少なくとも現状維持、あるいは改善から遠のく可能性もあります。文氏の支持勢力の一つである元慰安婦の支持団体の代表を長年務めた人物(尹美香氏)が当選しました。また与党や支持層には、2015年の日韓合意を破棄し、「日本が拠出した元慰安婦のための10億円を突き返せ」との主張が根強くあります。

 さらに、徴用工問題で日本企業に賠償を命じた18年の韓国最高裁判決を受けた日本企業の資産現金化が現実となったら、日韓関係はさらに悪化してしまいます。

 米韓関係もまた、心配です。ソウルでは昨年、駐韓米大使公邸に親北朝鮮団体の学生が侵入。米国大使館付近でハリス駐韓大使を「斬首」するとの集会も開かれました。

 反日・反米勢力が政界に増えることは、彼らの発言力が増すことです。韓国外交にも影響を及ぼす可能性がさらに増したことになるのです。