世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

新型コロナへの対応、注目される台湾の言動

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、46日から12日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。

 日本が緊急事態宣言発出、7都道府県対象(7日)。トランプ大統領、世界保健機関(WHO)は中国寄りと批判(7日)。武漢封鎖措置解除、2カ月半ぶり(8日)。米大統領選、民主党候補者指名争いからサンダース氏撤退(8日)。北朝鮮、最高人民会議、報道せず(11日)。「早期の警告無視」と台湾がWHOに苦言(11日)、などです。

 台湾当局は411日、WHOに対して、昨年12月末に「中国・武漢で特殊な肺炎が発生し、患者が隔離治療を受けている」との情報を伝え、警戒を呼び掛けていたと明らかにしました。

 公表したのは台湾の陳時中・衛生福利部長(大臣)です。台湾側は昨年末から武漢の現地報道などを注視し、1231日にWHOにも伝え、入境時の検疫も強化したというのです。

 陳氏が伝えたのは、「隔離治療はヒトからヒトへの感染の可能性があるということである」ことでした。もしWHOがその警告を生かしていれば感染拡大に早く対処できたと強調しました。中国側の専門家が、公式にヒトからヒトへの感染を認めたのは120日でした。

 陳氏は歯科医出身で、2005年、当時の陳水扁総統に衛生署次官に抜てきされ、政界入りしました。そして17年に衛生福利部長に就任しています。特に、決断の速さが評価されてきました。

 陳氏は112日、コロナウイルスがまだメディアで注目されない段階で2人の専門家を武漢に派遣しました。その報告を受けて16日に危険レベルを「警戒」に引き上げ、25日には全ての地域の中国人が台湾に入るのを事実上禁止したのです。

 さらに22日、小中高の2週間休校を決め、休校によって家で子供の面倒を見なければならない親が休暇を申請できるようにし、企業が休暇を拒否した場合には、処罰することを決めました。

 台湾側の言動が、中国の動向を強く意識していることは明らかです。

 蔡英文総統は41日、米国、欧州向けにマスク1000万枚を含む医療物資の提供を明らかにしました。人道支援が名目です。蔡氏は「台湾の責任を果たす」と述べ、さらに強調した文言は「国際社会の一員として」ということでした。「台湾は中国の一部」という中国の主張を強く否定したかたちとなりました。

 蔡政権がこの時期、欧米への支援へと動いたのは、3月中旬以降、世界各国に大規模な支援を始めた中国の動きが背景にあります。台湾が何もしなければ、中国の激しい外交攻勢の下で台湾の存在感が埋没しかねないからです。最近盛り上がってきた「台湾のWHO加盟問題」が停滞する可能性も十分考えられます。

 支援内容は、米国にマスクを200万枚、欧州各国に計700万枚、台湾と外交関係のある国に100万枚となっています。

 また、台湾は物資を支援する際、中国と違い露骨な政治的条件は付けません。また、支援物資の品質が良く安心して使えるとの評判で、国際社会から歓迎されているのです。

 今後、中国も物資の支援を展開するでしょう。中台間の「外交合戦」はこれからさらに激しくなるでしょう。