夫婦愛を育む 75
とてつもなく大きな信頼

ナビゲーター:橘 幸世

 人は幸福と安心を求める、とある精神学博士は言います。

 夫婦カウンセリングをすると、自分の安心のために互いをコントロールしようとする夫婦のなんと多いことか、と。夫がちゃんと働いてくれたら安心する、浮気していないと分かれば安心する、妻が穏やかに子育てしてくれたら安心する、などなど。

 これを読んで、ああやっぱり「安心」って、普段は意識していないけれど、人間にとってそんなに大事なんだなぁと再認識しました。

 「安心」の反対が「不安」、そしてそれが「心配」につながります。
 「心配」という負の感情を、「信頼」に置き換えましょうと言いますが、その信頼のパワーは、受けてみないとなかなか実感できないかもしれません。

 もう20年以上前になりますが、私は驚くほどの信頼をポ~ンと投げ掛けられたことがあります。
 会ったことも電話で話したこともない、最初こちらから手紙を出し、以来メールで数回やり取りしただけの女性から、「あなたがやったらいい」と、とても大きな仕事を任されたのです。
 私のスキルがどれほどのものか知る由もなかった彼女は、メールで読み取った内容だけから私を判断し、一任してくださったのです。

 任された私はどう思ったでしょう?
 「絶対に彼女の信頼に応えたい!」
 そう思い、責任感をもって、精いっぱいやりました。

 先日、三浦友和・山口百恵夫妻の長男さんが出演するテレビ番組があり、たまたま主人と見ましたが、二人して大変感銘を受けました。

 彼が大学3年の時、父・三浦さんが卒業後の進路について尋ねました。
 「歌手になりたい」と初めて打ち明けた息子に対して、父は「そうか。頑張れ」と言っただけでした。

 それから10年、彼の歌手としての歩みは紆余曲折ありましたが、両親は息子の仕事に対して何一つ言ってこなかったそうです。
 ただでさえ不安定な職業、まして決して順調とは言えなかった中で、親であればどんなに心配だったか分かりません。

 10年間何も言わない、というのは本当にすごいことです。同じ親として、どれほど大きな心があればそうできるのだろうかと、話を聞いてみたいと思ったほどです。

 息子さんは、何も言ってこなかったのがありがたかった、と言います。そして、自分は両親の大ファンである、と(ちなみに35年間両親のけんかはおろか、険悪な雰囲気すら遭遇したことがないそうです!)。
 きっと、親に倣い、親に喜んでもらいたいと努めつつ、生きていくのでしょう。

 当然、信頼するには勇気が要ります。お互い弱さを持った者同士、相手にこちらの思いが届かない、届いても受け止められないこともあるでしょう。でも、だからこそ投入することは貴く、人を動かすのだと思うのです。