夫婦愛を育む 74
「私、かわいくなった?」

ナビゲーター:橘 幸世

 私の年代では、友人たちと会っておしゃべりをすれば、お天気の話と同じくらいあいさつ代わりに出るのが、年齢に伴う身体面の変化に関する嘆きです。

 先日ある地方都市に行く機会があり、そこに住む友人と久しぶりに食事をしました。近況を交換しつつ、定番の「あそこが痛い、ここがどうした」といった話をしながら、ふと、「何か感じがちょっと違う。いい意味で」と彼女を見て私が言いました。それを聞いて彼女はパッと笑顔になり、ちょっと照れ臭そうに、でもうれしそうに、こんな打ち明け話をしてくれました。

 少し前までは、朝起きて鏡を見ると、そこにいるのは疲れて張りがなくなってくすんだ顔の女性。人並みのケアもしていないし、年齢には勝てないと思いつつも、鏡の中の自分にがっかり。口がへの字になっていれば、口角を上げて、感じよく一日を出発しようとするけれど、それも気休めにすぎませんでした。

 それが最近、「あれ? 私以前よりいい顔していることが多い。自分の顔が気に入っている」と気付いたそうです(聞きながら私は、テレビの化粧品のCMでタレントさんが“いい感じ”と言っているシーンを思い浮かべました)。

 「何があったの?」
 まさか化粧品の話でもあるまいと、私は原因を尋ねました。

 「う~ん、よく分からない」
 「最近、訓読を長くしているから顎が引き締まったかなぁ?」

 外的要因となりそうなものはそれくらいだそうです(あまり説得力は…?)。

 「実は春先、プチ鬱(うつ)っぽかったんだ。あれこれ心配事があって、気力が出なくて、それが体調にも表れて、余計落ち込んで…。ハラハラ涙をこぼしたこともあったの」

 そんな彼女がちょっとしたことで気持ちの切り替えができ、少しずつポジティヴ思考を積み重ねていったとのこと。「じゃあ、いい顔してると感じて、余計うれしくなったね」と私が言うと、「そうかも」と照れ笑い。

 切り替えのきっかけを尋ねると、「う~ん、はっきり分からないけれど、もしかして新聞の小説を読んでかなぁ。老人ホームにいる80代認知症のおばあさんが、なんと90代のおじいさんに恋をして、結果身体面でも良い兆候が出た、というメインストーリーとはあまり関係のないくだりで、ああ、そうなんだ、と思ったのよね」

 老いらくの恋はさて置き、“気持ち次第”ということがスパッと入ったようです。
 私たちを幸せの方向に連れて行ってくれるメッセージはちまたに溢れていますが、それが心にストンと入るかどうか、ですね。

 ご主人とのスキンシップも増えたそうですが、増えたから元気になったのか、元気になったから増えたのかははっきりしないとか。
 でも、妻の幸福感が夫婦関係において大切なのは間違いありません。妻が幸せそうにしていたら、夫は(子供も)寄って行きたくなりますよね。