世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

米、INF全廃条約から離脱通告

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 1月28日から2月3日までを振り返ります。

 この間の主な出来事を挙げてみます。
 通常国会で安倍首相が施政方針演説(1月28日)。沖縄県民投票、全41市町村で実施決定(2月1日)。米政府、INF(中距離核戦力)全廃条約からの離脱をロシアに通告(2日)。米朝首脳会談をベトナム・ダナンで開催することに合意(2日までに)、などがありました。

 今回は、米露「INF」全廃条約についてです。
 米政府は2月2日、INF全廃条約の義務履行を停止し、離脱することをロシアに通告しました。
 今後、米露双方で歩み寄りがなければ、6カ月後(8月)に失効することとなります。軍備拡張競争への懸念の声が上がっていますが、皮相的な批判と言わねばなりません。

 「INF全廃条約」は1987年に米国とソ連が結んだ条約です。地上から発射する射程が500~5000㎞の中距離ミサイルを持たないと約束したものです。

 条約締結の背景を説明します。
 まず、ソ連が欧州を狙って新型の中距離弾道ミサイル(「SS20」など)をたくさん配備して、欧州の軍事バランスが崩れました。それに対して米国も欧州にミサイルを配備して対抗したのです。当然、緊張も高まりましたが、軍備管理の交渉も本格化しました。その結果米ソ間で条約締結となったのです。

 米国の離脱理由は、ロシアが配備した地上発射の新型巡航ミサイル(「9M729」)が条約に反しているからというものです。
 実はそれよりも深刻な問題があるのです。中国の脅威です。このたびの米国の離脱通告によってロシアは反発していますが、2007年にプーチン大統領は、中国を念頭に、米露だけが縛られるINF全廃条約から離脱する意向を示していたのです。

 トランプ大統領は1日、離脱を正式表明したことに触れて「参加国を加えなければならない」と述べました。中国を含む新条約の締結を目指す意向を示したのです。

 中距離ミサイルは中国の軍事戦略の柱です。
 米国防総省の報告によれば、中国は中距離ミサイルを約1400発以上保有しているとみています。特に「グアムキラー」と呼ばれる「DF26」(射程約4000㎞)は脅威です。現状では、中国には廃棄するメリットはありません。

 正式通告後、6カ月間は、条約は残ります。条約がなくなり、軍拡競争が始まることを懸念する声もありますが、膨大な投資で軍事バランスを崩したのは中国です。
 米国、日本の同盟が通常兵器で軍事バランスを取り戻すのを新たな軍拡競争とは言いません。