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シリーズ・「宗教」を読み解く 353
キリスト教霊性とイグナチオの「霊操」③
聖ベネディクトから聖グレゴリウス1世へ

ナビゲーター:石丸 志信

 古代キリスト教世界において、本物のキリスト者としての生き方を追求した名もなき人々がいた。
 キリスト教の共同体を形成する彼らの涙ぐましい努力が積み重なり、その中から時に応じて、卓越した霊的指導者が登場した。

 「教父」といわれるのはそうした人物だ。
 教父は、献身的な生活の理念を求め、ビジョンを求め、見いだした理念に基づいて生活形態を整備していった。
 このような営みが、ローマ帝国の迫害下の困難な状況から、帝国の指導的な理念となる道を開いてきた。

 迫害が終わってからも、福音に基づく生活を真摯(しんし)に追求する者たちは絶えなかった。
 隠遁(いんとん)生活から始まった古代の修道生活が整備され、修道院形態を持って制度化がなされていく。そして中世キリスト教霊性をけん引することになる。

 6世紀に登場する聖ベネディクトは、中世の扉を開いた代表的人物である。
 彼は自らが指導する修道院の「規則」を書き著わし、福音の理想を生活化する試みを始めた。

 聖ベネディクトの修道院で訓導を受け、590年にローマ教皇の座に就いた聖グレゴリウス1世は、聖ベネディクトの『戒律』を世に知らせ、荒廃した西ローマの領域において、修道院をキリスト教霊性の拠点とした。

 彼自身が修道者であり、聖ベネディクトの霊性の体現者であった教皇は、アングロ・サクソン民族の教化を思い立ち、イングランドに修道者の宣教団を派遣した。
 これ以後、聖ベネディクトの『戒律』を順守する修道霊性は、島国イギリスにおいてよく保持された。

 8世紀には、ゲルマン民族が主権を握る西ヨーロッパ大陸にイギリスからベネディクト修道会の宣教師が送られ、ゲルマン民族の指導者に対する正統信仰の再教化が進んだ。
 そしてこの民族が建てたフランク王国の精神的支柱をベネディクト修道士が担うこととなった。

 こうして、聖ベネディクトの霊性に基づく修道制は、中世ヨーロッパ世界の新しい文化形成の原動力となっていく。
 初代教会の使徒的共同体を理想とするベネディクト修道院は、兄弟的共同体として、初代教会の姿を中世に具現化し、キリスト教王国の核となっていった。

 時の流れとともに、その理想を忘れかけると、必ず『戒律』の順守を掲げた刷新がなされ、改革を繰り返しながら中世修道制度は長く存続していった。



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