2025.01.28 17:00
シリーズ・「宗教」を読み解く 351
キリスト教霊性とイグナチオの「霊操」①
「霊性」の意味するものとは?
ナビゲーター:石丸 志信
本連載では、これまで中世キリスト教の伝統を支えてきた「修道院の祈り」を歴史的にたどった後に、近世の新しい改革刷新の扉を開いたイグナチオ・デ・ロヨラとイエズス会について話を進めてきた。
ここで今一度、キリスト教の歴史において伝統的に用いられてきた「霊性」の意味を考えてみたい。
「霊性」(スピリチュアリティー)という言葉は、そもそもはキリスト教の伝統の中で生まれた言葉だ。
古代キリスト教の指導者で信仰の模範を示した教父たちは、「人間が洗礼によってその心に注がれた神の霊に従って生きる」(『福音に生きる~霊性史』鈴木宣明著 聖母の騎士社 1994年、15ページ)という意味でこの言葉を用いた。
その意味するところは時代と共に変遷をしてきたが、今日では、もう一度本来の意味に立ち返って、その神学的な探究が進められている。
現代のカトリックの神学者は、「霊性とは、一人ひとりのキリスト者がどのようにイエス・キリストの福音を受容し、その信仰の生き方をどのように具体的に実践するか、その具体的な信仰の営み方、信仰の実現様式だ、と言ってよい」(『キリスト教の神学と霊性~今日どのように信仰を生きるか』百瀬文晃・佐久間勤共編 サン・パウロ 1999年、248ページ)という。
プロテスタントの神学者は、「キリスト教の霊性は、満たされた本物のキリスト者の存在となることを求めることであり、キリスト教の基本的な考え方と、キリスト教信仰の基礎と枠組の中での人生の全ての経験とを統合させるものである」(『キリスト教の霊性』A.E.マクグラス著 稲垣久和・岩田三枝子・豊川慎訳 教文館 2006年、18ページ)と定義する。
こうした言説からすると、「キリスト教霊性」という言葉は、神に対する認識の仕方や神秘的体験、あるいは神秘的現象を捉える能力といった事象を指すものではないことが分かる。
そうではなく、イエス・キリストを通した神の啓示によってもたらされた信念の体系、価値体系を現実生活の中でどのように具現化していくのか、そのありよう全体を意味するものだ。
イスラエル選民の宗教伝統として培われてきたユダヤ教の伝統と区別して考えるならば、イエスの復活の後、五旬祭の日に起こった聖霊降臨の体験を通して初めて出てくるものだ。
すなわち、イエス・キリストと聖霊によって生まれ変わって新しい命を得た者たち(キリスト教信者)が、イエスの生涯に倣って神の子として完成に向かって歩き続ける人生全体を指し示す言葉だといえる。
従って、「キリスト教霊性」とは、信仰に根差し、希望を抱き、愛に満ちた人格を完成していくキリスト教の人生観そのものを指すといってもよい。
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