家庭力アップ講座 18
「私メッセージ」の実践

(APTF『真の家庭』232号[2月]より)

家庭教育アドバイザー 多田 聡夫

「私」という言い方

 「私」という言い方でメッセージを伝えます。自分の意見や、感じたことを伝えます。「あなた」で始まるメッセージは、相手の問題を指摘し、相手の行動を変えさせようとする表現となり、相手が愛情を感じることができなくなるでしょう。ややもすると相手を裁くことになってしまいます。「私メッセージ」は「信頼残高」を築くことができるよい方法なのです。

 自分の感情的思いではなく、共感したい思いで子供に接する自分の気持ちをそのままに、「私」ということばを主語にして表現するのが「私メッセージ」です。「私メッセージ」の特徴は、相手の行動をよいとか悪いとかの評価を下さずに、自分はどう思うというふうに自分の気持ちを表現できることです。

 すなわち子供が自発的に自分の行動を変えようとする気持ちが生まれやすくなるのです。そのために、あなたは、子供にどの行動が、あなたを困らせているのかを、子供が受け入れやすい形で伝えなければなりません。意外にも、子供は、親が何故怒っているのかを理解していない場合があります。

 例えば、父親が運転して、家族でドライブしているとき、子供は楽しくて騒いでいたら、父親が急に怒り出して、「うるさい、黙っていなさい」と思わず言ってしまうことが往々にしてあります。しかし、子供から言えば何故父親は怒っているのだろうか理解していないのです。「大きな声を出すと、安全運転ができないので静かにしてほしい」と伝えることが必要なのです。

親の感想を紹介します。

 「私自身に一つのドラマのような忘れられない幼稚園の時の思い出があります。帰りの園児が、先生と一緒に、集団で帰る途中に、何を思ったのか自分一人で皆から離れて、小川沿いの近道を通って帰りたくなってしまって、女の先生の向こうずねを蹴っ飛ばして、さっさと一人で帰ってきてしまったのです。その後、その先生やほかの先生、あるいは皆からいろいろ言われたのですが、自分としては、何かピンとこず、悪いことだと分かっていたのですが、そのまま心から悔い改めることもなく、今日まで来てしまいました。

 今日の話を聞いて、あの時もし、たった一言『先生、痛かったの。悲しかった。貴方が一人で帰ってしまって。それに皆がまねをして同じようにしてしまったらどうするの。悪影響を与えたことになるのよ』と言ってくれれば、いくら私でもその時にはっきりと悟っただろうと思います。しかし、今日、はっきりとわかりました。私は自分勝手だった。自分さえよければよかった。自分のことしか考えていなかった。結局、自分中心だったということです。神様は、必ず私メッセージで伝えてくれる。そして、『もっと早く、伝えてあげたかった』という言葉が、胸に染みました」

子供が受け入れやすくなる3つの要素

 「私メッセージ」を子供が受け入れやすく伝えるためには、3つの要素を入れこむ必要があります。

 第1に、子供のどんな行動が問題なのか。

 第2に、その行動があなたにどんな影響を与えているか。

 第3に、その影響についてあなたがどう感じているのか。あなたの感情を正直に伝えることです。

 3つの要素とは、つまり、「行動」・「影響」・「感情」の3つです。いつもこの3点を相手に伝えていくようにするのです。「共感的聞き方」や「積極的聞き方」ができるようになれば、自然に「私メッセージ」を用いることができるようになるでしょう。

 では、いくつか「私メッセージ」の例題を紹介しましょう。

例1:
 「友人と話をしている時に、あなたたちが近くでおしゃべりしていると」(「行動」)
 「イライラするの」(「感情」)
 「だって、友人の言っていることが聞き取れないんですもの」(「影響」)

例2:
 「階段におもちゃを置くと」(「行動」)
 「誰かがつまずいて転ぶのではないかと心配よ」(「感情」)
 「そして、階段の上り下りが難しくなるでしょ」(「影響」)

例3:
 「この部屋の中であなたたちが大きな声を出していると」(「行動」)
 「気が散って勉強に集中できないし、なかなか理解が進まないので」(「影響」)
 「不安でたまらないんだ」(「感情」)

 以上の例題のように、子供に「私メッセージ」で伝えたほうが、子供から抵抗や反抗を生むことが少ないのです。子供がこの行動をしたから、子供が悪いのだ、というよりも、この行動が「あなた」にどういう影響を与えたかを正直に話してあげるほうが、子供にとっては受け入れやすいのです。

 では、もう一つ、「私メッセージ」と「あなたメッセージ」を比較してみることにしましょう。「子供が親の背中を蹴った」としましょう。その時、子供に引き起こす反応は、大きく違うのです。

●まず「私メッセージ」では、「イターイ。あーあ痛かった。背中を蹴られるのはいやだな」となります。

●「あなたメッセージ」では、「悪い子ね。そんな風に人の背中を蹴ったらダメじゃないの」となります。

 「私メッセージ」では、単に子供が蹴るとあなたは、どう感じるかを述べているだけです。「あなたメッセージ」では、子供は「悪い子」だというメッセージが伝わってしまいます。

 「私メッセージ」を用いた場合の効果は、

 第1に、子供が親の願いに沿って行動を変えるようになります。

 第2に、「私メッセージ」に対して口答えするのは難しいのです。

 第3に、反発を招くことが少ない。

 第4に、親に真実な気持ちを話させるので迫力があります。

 第5に、子供の気持ちを協力的にさせます。「私メッセージ」は、親の愛情を子供が感じやすくすることができるのです。

 大切なのは、子供を理解したいという気持ちでしょう。本当に子供の気持ちを理解したいと思って接していれば、言葉は自然と出てくるものです。あきらめることなく、何度も何度も挑戦して、あなたの家庭が幸福を勝ち取るまで、チャレンジしていきましょう。