家庭力アップ講座 16
積極的聞き方

(APTF『真の家庭』228号[10月]より)

家庭教育アドバイザー 多田 聡夫

「共感」から「積極的聞き方」へ

 前回までの「共感的聞き方」は、子供に親の愛情が伝わる確かな方法です。ここで学ぶ「積極的聞き方」も同じように、子供に親の愛情が伝わる、聞き方です。「共感的聞き方」を何度も何度も繰り返して実践することで自然と「積極的聞き方」が出来るようになります。知識だけ理解して、家庭の中で実践しようとしてもすぐにはうまく行かないことがありますが、気持ちを分かってあげたいという「人の為に生きる」実践を続けていけば必ず、うまく気持ちを共感していけるようになります。また、共感の土台の上になされる「私メッセージ」(次回で紹介)は、親の思いや愛情を子供に伝える方法です。

 「よかったらほめる。悪かったら叱る」ことは、今まで当たり前のようにしてきたことですが、もう一度考え直してみましょう。特に「悪かったら叱る」というのは、親の価値観で叱るので、子供が何故怒られたのか、分からない場合があります。

 実は、私が中学2年生のとき、担任の先生から、放課後に友人と3人で残るように言われ、先生は私たち3人に、「お前ら、何をしたか分かっているだろう」と言って、頬ビンタをしました。そして「心に手を当てて反省しろ」と言い、その場を去っていきました。私は、今なお、何故、頬ビンタを受けたのか分からないでいます。私の心には、先生に対して不信感のようなものが残ってしまいました。今でも、その先生に会ったら理由を聞いてみたいと思っているほどです。

 理由も聞かず、先生の価値観で私達に対応したことが私の心をゆがめてしまっていたのです。何故、子供がそうしたのか理由があるはずですから、怒るのは、それを聞いてからでも遅くないのではないでしょうか。

 子供が大きくなるにつれて、だんだんと、子供の気持ちが理解できなくなってしまい、子供とのかかわりを持っていくことが出来にくくなってしまうのではないでしょうか。私たちは、いつまでも、「子供の人生の応援団長」でありたいわけですが、子供の気持ちがわからなければ、応援団長になることはできません。

子供の感情表現を助ける

 積極的な聞き方は、子供が問題を抱えていて、落胆、あせり、苦痛などの感情を表現する時に有効です。

 積極的な聞き方は、子供が自分の心を開き、本当の欲求や真実の感情を打ち明けるのを助ける、強力な道具です。そうすれば、次の段階で、相手の欲求を満足させ、親も受け入れられるような方法を見つけやすくなるのです。

 問題解決の責任を子供に残しておくようにしましょう。子供は自分とは別の人格であることを認める必要があります。独力で問題を解決していくように、子供自身の内なる力を信じる方法なのです。

 人の話を聞くことは真の愛情を感じさせる最大の方法です。

 まず、相手の言葉をくり返す。次に相手の言葉を言い換える。そして次の段階は、相手の心を汲み取って気持ちを表現していくのです。気持ちを表現することを通して、気持ちを共感的に理解するようにして行きます。

 『親業』が紹介している分かりやすい例を紹介します。これは実際にあった親と子の会話です。子供の発言のあと、子供の感情をもっとも適切につかんでいると思われる親の応答に○をつけて考えてみて下さい。

中学1年生と母親の会話

1.
子供:お母さん、僕テニス部やめて柔道部に入りたいんだけどだめかな。
親:
(A)あら、テニス部より柔道部がいいのね。
(B)なに言ってるの、まだ1か月にしかならないじゃない。
(C)なにかいやなことでもあったの?

2.
子供:そうなんだ。柔道部は強くなると段がもらえるしさ、男らしくていいと思うんだ。
親:
(A)そう、柔道部のほうがいいように思えるのね。
(B)誰か仲良しが、柔道部にいるわけ?
(C)男らしさってなにかしらね。

3.
子供:そう、テニス部なんかよりずっと面白そうだよ。テニス部はいやだよ。
親:
(A)でも、テニス部へ入るときだって、面白そうだって言ってたじゃないの。
(B)またすぐ気が変わって、他の部に移りたいなんて言うんじゃないの。
(C)そう、テニス部はもう本当にやめたいと思っているようね。

4.
子供:やめたい気分だよ。1年生は球拾いばっかりなんだ。まだ1度も打ったことがないんだよ。
親:
(A)1年生が球拾いをするのは当然じゃないの。
(B)球拾いばかりで、いやになってしまったのね。
(C)球拾いくらいできないで、テニスができるわけないわよね。

5.
子供:そうなんだよ。球拾いにはもううんざりなんだ。それに上級生がものすごく威張ってるんだ。
親:
(A)運動部の上級生なんてどこでも威張っているんじゃない。
(B)そういうことに耐えてこそ上達すると思うけど。
(C)球拾いの上に、上級生に威張られて、いやになってしまったわけね。

6.
子供:そうだよ。しかも女子の上級生のほうが威張っていて、時々ラケットで頭をぶつんだよ。
親:
(A)まあいやだ。女のくせにひどいことするわね。
(B)女の先輩もそんなことするの。新入生も大変なのね。
(C)誰がそんなことするの? 先生に言ってやめるように注意して頂いたら。

7.
子供:そう。でも、どの人もそういうわけじゃないんだよ。とてもいい人もいるんだから。
親:
(A)とてもいい人もいるのね。
(B)そりゃそうでしょう。ラケットでぶつような人ばかりじゃたまらないわ。
(C)ああ、それを聞いて安心したわ。

8.
子供:そうさ。だから1年生は先輩がちゃんと練習できるように、球拾いをして協力しているのさ。
親:
(A)先輩はたてなくちゃね。
(B)先輩の練習に協力しているわけね。
(C)あなたも2年生になれば1年生に球拾いさせるわけでしょ、順番よ。

9.
子供:そうだよ、球拾いする人がいなければ、上級生が困るだろ。みんなそうして上級生になっていくんだよ。
親:
(A)上級生も1年生の時は球拾いしたんだと気がついたようね。
(B)球拾いだって大切な仕事よ、頑張らなくちゃ。
(C)いい上級生とだけつきあえば、大丈夫なんじゃない。

10.
子供:そうだよ。明日から一生懸命球拾いするんだ、時々なら打たせてくれるし、素振りの練習もつけてくれるんだよ。
親:
(A)そう、テニス部を続けるつもりになったようね。
(B)なんだ、球拾いばっかりじゃないじゃない。
(C)それじゃやめるなんて言わなければいいでしょ。心配しちゃったわ。

11.
子供:うん。柔道部のことは、また高校に入った時にでも考えるよ。
親:そう。じゃあ、がんばってね。

(トマス・ゴードン著『親業』より)

□親の感想を紹介します。

 「相手の最初の言葉にとらわれて、判断してしまうのは、相手の本心を信じていなかったからだと痛感しました。なかなかすぐには実践出来ませんがとても希望を感じました」

 「否定的な要素を込めず、常に相手を思いやる愛の実践とも言える、積極的聞き方が、身に着いたらどんなにいいかと思います」

 「私達は、人の話を自分流で答えてしまっているところがあると思います。そうではなくて、相手からの質問には、素直に相手の言葉で言い直し返答するということが大切だと強く感じました」

 「母と子の例は分かりやすかったです。母は、話を聞いているだけだったけれど、子供はすっきりして、自分で自分の納得の行く解答を見つけました。悩みといっても、つまるところ、自分の中で自分はどうしたいのかの解答は既に自分で分かっているのだな、と思いました」