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愛の知恵袋 189
人を動かす三つの秘訣

(APTF『真の家庭』310号[20248月]より)

松本 雄司(家庭問題トータルカウンセラー)

人を動かす三つの秘訣

 ある30代の男性から相談がありました。今の会社に就職して数年後、熱心に働いてきたおかげで昇進し、一つの部署を任せられ部下を10人持つことになりました。

 しかし、その後のことがうまくいかず、非常に悩んでいるようでした。

 「どんなことで、お困りなんですか?」「実は、部下が思うように動いてくれません…。最初の頃、優しくしたらなめられてしまったので、途中から厳しく言ったり、ルールを作ったり、いろいろ指導方法を変えてみましたが、反発する社員もいて、この2年間に3人も辞めました。どうしたら部下から信頼され、喜んで動いてくれるようになるんでしょうか…」

 私はさらに詳しく状況を聴いたうえで、デール・カーネギーの「人を動かす3原則」のことを紹介し、彼と一緒に学ぶ時間をつくりました。

第一原則=盗人にも五分の理を認める(相手を非難しない)

 相手の欠点や問題点は目に付きやすいものですが、それを指摘し、非難しても相手は素直に受け入れてはくれません。なぜなら、人は決して自分が悪いとは思いたがらないからです。刑務所にいる凶悪犯でも、自分が悪人であると思っている人はほとんどいないそうです。

 実際、人の欠点や失敗を指摘して相手を変えさせようとする試みは、ほとんど失敗に終わります。相手は感情で反発し、身構えて反撃姿勢になるからです。

 動物の訓練を経験すればよく分かりますが、良いことをした時に褒美を与えるのと、間違ったことをした時に罰を与えるのでは、前者の方がはるかによく物事を覚え、訓練の効果が上がります。これは人間にも当てはまります。

 従って、第一の秘訣は、相手の失敗を非難するよりも、むしろ相手の失敗に同情してあげ、理解を示したうえで、穏やかに話したほうが良いということです。

第二原則=重要感を持たせる(率直で誠実な評価を与える)

 人は自分が一番欲しいものを与えてくれる人を好きになり、その人の願いならば喜んで聞きたくなります。

 つまり、人を動かすには、相手の心の欲求を満たしてあげることが肝要なのです。では、人は心の中で何を一番欲しているのでしょうか? デール・カーネギーは、「誰しもが持っている最も強い欲求は、『自己の重要感を満たしたい』という欲求である」と言っています。

 この点については、哲学者・教育学者のジョン・デューイも、「人間の持つ最も強い衝動は、“重要人物たらんとする欲求”である」と言い、心理学者のウィリアム・ジェームズも、「人間の持つ性情のうちで、最も強いものは、他人に認められることを渇望する気持ちである」と言っています。

 人は自分を高く評価してくれる人には好意を持ち、その人の言うことを聞こうとします。従って、人を動かす第二の秘訣は、お世辞でなく心から相手の長所を褒めてあげ、「あなたは重要な人だ」と認めてあげることです。

第三原則=人の立場に身を置く(強い欲求を起こさせる)

 「成功に秘訣というものがあるとすれば、それは、他人の立場を理解し、自分の立場と同時に、他人の立場からも物事を見ることのできる能力である」(自動車王・ヘンリー・フォード)

 「人を動かす最善の方法は、まず、相手の心の中に強い欲求を起こさせることである。商売においても、家庭や学校においても、あるいは政治においても、人を動かそうとする者はこの事をよく覚えておく必要がある。これをやれる人は万人の支持を得ることに成功し、やれない人は一人の支持者を得ることにも失敗する」(心理学者・オーヴァストリート)

 私たちは、人から指示をされてやる時は仕方なくやりますが、自分が心からやりたいと思った時には熱が入ります。

 つまり、人を動かす第三の秘訣は、こちらの事情や希望を伝えて相手にやらせようとするよりも、その人が望んでいることを察して、「こうしたら、それが手に入りますよ」と教えてあげることなのです。

 相談者と一緒にこの三つの原則を学んだあと、彼がつぶやくように言いました。「なんてことだ…。私は彼らの気持ちを考えず、全く反対のことをやっていたんですね! 今までうまくいかなかった理由がよくわかりました」

 この「人を動かす3原則」は、会社や団体での人間関係にも、友人・知人との付き合いにも、そして、家庭での夫婦や子育ての在り方にも通用します。

 間違いを指摘して叱ったり、規則や罰則を作って動かそうとするよりも、相手を信頼し、長所を褒めてあげ、その人に合った役割を与え、思う存分にやらせてあげれば、人は生き生きとして動き、おのずと良い結果を生み出していくものです。

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