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愛の知恵袋 188
立つ鳥、跡を濁さず…終活考(下)内省編

(APTF『真の家庭』309号[20247月]より)

松本 雄司(家庭問題トータルカウンセラー)

「覚悟は良いか!」…自分への問いかけ

 前々号では身辺整理とエンディングノート作成の必要性について触れ、前号では自分の夢・志を受け継いでくれる後継者を育成する必要性をお話ししました。

 最終回は、終活の中で最も本質的で大切なことについて考えてみたいと思います。少し堅苦しい話になるかもしれませんが、ご容赦ください。

 時代劇などを見ていると、「覚悟せよ!」とか「覚悟はあるのか」という言葉をよく聞くと思います。通俗的に使われる「覚悟は良いか」という言葉は、「死ぬ心構え、あるいはリスクを負う心構えはできているのか」という意味ですが、実は、この「覚悟」という言葉は仏教用語であり、「覚」も「悟」も「さとること」です。

 仏教徒がめざす「仏陀(ブッダ)」とはサンスクリット語で「目覚めた人」という意味ですが、「仏陀」とは「宇宙の真理を悟り、慈悲の境地に到達した人」のことです。そのような仏陀によって治められる世界が浄土であり、理想とする世界です。

 ですから、仏教徒にとっては修行を積んで成仏すること(悟りを開き仏陀になること)が人生の最大の目標であり、現世はそのための修行の場であると考えています。

 従って、「覚悟は良いか?」の本当の意味は、「もう、悟りは開いたか?」「修行の目的は成就したか?」「いつ死んでも悔いはないか?」という意味なのです。

 同じような意味で、晩年を迎えるにあたって、私たちは人生の最終目標をどの程度まで達成できているのか?…これを自分に問いかける必要がありそうです。

地上人生での最終目標は何か?

 儒教では、修養によって五常(ごじょう:仁・義・礼・智・信)の徳を修めることを目標とし、それを究めた人を「君子(くんし)」と言います。従って、「君子」を目指して日々修養を積み、最高の徳である「仁」の境地に到達することが人生の目標です。

 孔子の理想は「修身(しゅうしん)・斉家(せいか)・治国(ちこく)・平天下(へいてんか)」でした。つまり、天下を平(たい)らかにする(平和を実現する)ためには、まずもって五徳で身を修め、かつ家を斉(ととの)えた者が国を治めてこそ、それが可能になるのだと説きました。

 キリスト教ではどうでしょうか。イエスが指摘した最大の戒め…「心をつくし、精神をつくし、力をつくし、思いをつくして、主なるあなたの神を愛せよ」そして、「自分を愛するように、あなたの隣り人を愛せよ」(ルカ伝10章)という二つの教えを一生かけて実践し、イエスのように神と人への愛の完成者になることが人生における目標になります。

 そのような「愛」で国境も人種も超えて全人類が親なる神のもとで一つになり、人類一家族世界ともいうべき平和世界(天国)を実現することが理想です。

最も大切な終活は「内省(内観)」…自分の成熟度を点検する

 孔子の弟子・曾子は「吾日に吾身を三省す」と言いました。一日に何度も自らを省みるというのです。私たちも内面をじっと見つめて「気付くこと」が大切です。

1)第一に、「自分は罪を犯してこなかったか」を内省する。

① 私の言葉や行動で人の心を傷つけたことはなかったか? あれば、それを謝罪し許しをいただいたか。
➁ 物やお金を盗んだり、人をだましたりしたことはないか? あれば、それを清算しているか。
③ 不倫や不道徳なことをしてこなかったか? あれば、それを神に告白し、悔い改めたか。

2)第二に、「自分はどれだけ愛の人格者になれたか」を内省する。

① 家族一人一人をどれだけ愛し、幸せにしてあげたか?
➁ 友人知人や、周辺の困っている人、苦しんでいる人を何人助けてあげたか?
③ 社会のため、国のため、世界人類のためにどれだけお役に立てたか?
④ 他者のために生きてきたか? 自己中心の生き方ではなかったか?
⑤ 受けるより与えること、愛されるよりも愛することが喜びになっているか?
⑥ 私の心は神への感謝に溢れているか? 人への愛に溢れているか?
⑦ 自分の心と魂は、愛においてどの段階まで成熟し、完成できているか?
⑧ いつ死んでも悔いはないか? やり残していることはないか?

 心を無にして謙虚に内省してみれば、自分の未熟さに愕然(がくぜん)とすることが多いものです。

 それに気が付いたら、残された人生の時間で、それらを改めていきましょう!

 終活は各自の人生の総まとめ、総仕上げです。地上の人生は一度しかありません。地上でなすべきことを成し遂げて、晴れ晴れとした気持ちで永遠の世界に旅立っていきたいものですね。

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