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心をのばす子育て 44

 アプリで読む光言社書籍シリーズとして「心をのばす子育て」を毎週土曜日配信(予定)でお届けします。
 子育ての本質を理解し、個性に合わせた教育で幸せな家庭を築くための教材としてぜひお読みください。

長瀬雅・著

(光言社・刊『心をのばす子育て7つのポイント』〈2002210日第2版発行〉より)

6、意の教育

■目的観

 「意」の教育には個人的な面の「自立心(自律心)」と、全体的な面の「社会性」という側面があります。自立心とは今まで育ててきた愛情、創造性、主体性、責任感、忍耐力などです。
 この自立心は幼児期から徐々に形成されてきます。主体性や創造性の基になったのが自発性です。この自発性に責任感をもつように躾(しつ)けながら主体性を養っていきます。これは中学生くらいまでは親が導きながら育てていくのですが、高校生くらいからは徐々に本人一人の判断にゆだねる時期に入ります。つまり子供本人の「意志」が問題になります。

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 意志とは「意の志=目的」を考えるということです。これから社会に出て何をするのかという目的を探すことです。今まで育ててきた主体性に具体的に方向性を与えるのです。
 誰でも自分がやりたいこと、将来の方向性が見つからないというのは苦しいものです。そうすると訳もなくイライラしたり、人に対して怒りがわいたり、自暴自棄になったりします。
 最近の青少年事件の裏には、自分の情が流れずにたまって切れてしまう子供と、将来に対して目的が見つからなくてイライラしている子供と、その時さえよければいいという刹那(せつな)的な子供の姿が見えます。

 目的をもつことで「やる気」が啓発されます。幼児期のやる気は「情」が中心なので、好きなこと面白いことが動機になります。
 そして、少し大きくなり「知」が働いてくると、損得でも判断するようになります。しかし、これだけでは行動が自己中心的になります。嫌なこと、苦労する(損をする)ことはやらない人間になってきます。好きなことと得なことにしかやる気が起きません。
 ところがこれ以外に、目的を見つけるとやる気が起きてくるのです。高校生ぐらいになると、目的観から啓発される「やる気」が必要です。目的のある行動は苦労を乗り越えます。嫌なことでも頑張れます。「やる気」の次元が一段階上がるのです。

 よく自己啓発セミナーとか自己啓発プログラムというものがあります。そのセミナーの内容は自分の将来を見つめさせ、目的を見つけるという内容が中心です。
 しかし、問題は目的を見つけても、自己中心的な目的では最終的に幸せを手に入れることはできないということです。お金が欲しいからといって人をだましてお金を手に入れたら、一時的にはよいかもしれませんが最終的には不幸になります。
 自己啓発セミナーの時は自分が変わったように思うのですが、セミナーが終わって普通の生活に戻ってみると、結局前と変わっていないのです。目的を見つけることはいいのですが、社会性、主体性、責任感などが育っていないと変わらないのです。人間はそんなに簡単には育ちませんし、変わりません。

 また、論語の中に「十五にして学志、三十にして立ち、四十にして不惑……」という人生観があります。この中の「学志」というのは志をもった学びをするということです。そして30歳から実践をして、40歳で信念をもったということです。
 高校生までは与えられたことを覚えているだけなのです。ここまでで学んだことはメッキみたいなものです。ですから、いずれは忘れていきます。本当に身になるのは「志(目的)をもった勉強」なのです。この時期が、現代では大学時代です。

 本来の大学の選び方は、高校時代に社会に対して目を向けて将来自分がやりたいことを見つけ、その目的に合った大学を選ぶべきです。大学で目的に合った学問をして、十分に準備をして社会に出るのです。
 ところが、今の親や高校生は社会にあまり目を向けていません。社会が目標ではなく、大学が目標になっています。その結果、入試に合格して大学に入ったら目的が達成されて満足してしまい、勉強する意欲がなくなるケースが非常に多いのです。そして大学時代は遊んでしまうのです。
 昔は灰色の受験時代と言いましたが、最近の大学生は受験時代がよかったというのです。大学という目標があったので生活に張りがあったのです。苦しくても大学という目的に向かっている時は充実していたのに、目的がかなった瞬間に意欲がなくなってしまったのです。

 高校生の時にもつべき目的は大学といった目先のものではなく、人生を見つめて、自分は社会に出て何をするのかという目的観が必要です。
 アメリカではこの考え方が一般化しています。高校生の時にボランティアやアルバイトをして社会勉強をします。アメリカの大学は入るのは楽ですが、そこでの勉強は本当に大変です。ですから、大学を出た時の実力は日本より上です。

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 次回は、「目指す人間像」をお届けします。