世界の宗教人たち 6
スウェーデンボルグ（下）

スウェーデンボルグ（下）

　『中和新聞』で連載した「歴史に現れた世界の宗教人たち」を毎週木曜日配信（予定）でお届けします。
　世界の宗教人たちのプロフィールやその生涯、現代に及ぼす影響などについて分かりやすく解説します。（一部、編集部が加筆・修正）

天界と地獄界を探訪
イエスと神に出会い『霊界日記』に記録する

　エマヌエル・スウェーデンボルグは1688年1月29日、ストックホルムで生まれました。エマヌエルとは「神がわれらと共にいます」という意味です。父は宮廷専属のルター派の牧師、後ウプサラ大学の神学教授になったイェスペル・スヴェードベリです。

　ごく幼いころからエマヌエルは、心霊的な感受性を持ち合わせていました。ある時両親は庭でひとりで遊んでいる息子を見かけました。ところが彼は「遊び友達と一緒にいたよ」と言います。そのため両親は驚いて「この子は天使と話している」と語ったそうです。

　11歳になって彼はウプサラ大学に入学しました。それは特別な才能があったからではなく、中学・高校・大学の課程が一まとめになった学校への通常の年齢による入学でした。彼は哲学部で科学と数学を勉強しましたが、21歳で大学を離れロンドンに渡りました。その後、オランダ、フランス、ドイツ領リューゲン島を経て、スウェーデンに戻ってきます。

　スウェーデンボルグは中年期の大部分を、鉱山技師として貴族院議員として過ごしました。化学や物理学に関するたくさんの本も書きました。その後、彼の関心は人体へと転じ、解剖学や生理学を研究するようになります。

　1743年7月から1744年10月にかけて、『霊魂の王国』の執筆と出版のため、外国旅行に出かけました。その間彼は自分の見た夢やその解釈を日記につけました。

　こうした夢や心霊的体験を重ねるにつれ、心の奥底にあった道徳や信仰にかかわる問題までもが表層の意識へと浮上し、人生の目的や自己の救済について苦もんするようになっていきました。それは中世の修道僧をほうふつさせるものがありました。科学的探求を続けるべきか、気高い仕事によって神に仕えるべきか、彼は悩みました。

　1744年4月6日、オランダのホテルでのことです。イエス・キリストが現れたのです。「『おお、全能者イエス・キリストよ。汝は汝の偉大なる慈悲により、かくも大いなる罪人のもとへ来たり給う。…』。私は両手を組み合わせて祈った。するとその時、手が差し出されて、私の手を堅く握った。……その刹那、私は彼の胸元にいて、彼と顔と顔を見合わせた」（『夢日記』より）

　さらに1745年4月、57歳の時です。一人の人が現れ、「私は主なる神、世界の創造主にして贖罪（しょくざい）主である。人々に聖書の霊的内容を啓示するために汝を選んだ。この主題に関して何を書くべきかを汝に示そう」と語りました。そしてその夜、霊たちの世界や地獄および天界がはっきりと彼に開かれたのです。彼はそこで、生涯のあらゆる場面で出会った多くの知人たちと再会しました。そしてその日以来、一切の世俗的な著述活動を放棄し、彼の研究を霊的な事柄にささげたのです。

　スウェーデンに戻ったスウェーデンボルグは鉱山局をやめ、アムステルダムに行って、聖書索引と『聖書講解』のための仕事に忙殺されました。またこのころからビジョンや霊的体験を、現在『霊界日記』と呼ばれるものに記録し始めました。

　スウェーデンボルグの一連の神学著作の特徴は、近代科学の洗礼を受けた人間が書いたという点です。また文学的な想像力や他人からの伝聞に基づいて書かれたものではないという点です。1745年以来、27年間、スウェーデンボルグは地上界と霊界に同時に住み、生きながらにして前人未到の世界へ分け入り、その未知の世界を余すところなく記録しました。

　「預言者はその故郷では敬われない」という言葉がありますが、スウェーデンでは、スウェーデンボルグの教説が国教であるルター派の教義に反しているとの批判もあり、一連の神学著作をめぐって不穏な空気が漂っていました。

　1771年、83歳のスウェーデンボルグはロンドンに向かって旅立ち、再び故国に帰ることはありませんでした。

　1772年、メソジスト教会の創立者ジョン・ウェスレーとのやりとりの中で、スウェーデンボルグは3月29日に世を去ると予言しています。3月29日の夕方、付き添っていた家政婦に彼は「いま何時かな？」と尋ねました。「5時です」と答えると、「ありがとう。あなたに神の祝福があるように」と答えて静かに息を引き取りました。

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　次回は、「ジョン・ウェスレー（上）」をお届けします。