2024.04.13 22:00
続・夫婦愛を育む 17
その名は「和解村」
ナビゲーター:橘 幸世
Blessed Lifeの人気エッセイスト、橘幸世さんによるエッセー「続・夫婦愛を育む」をお届けします。
四半世紀も前だったかと思います。『神々の詩(うた)』という民放のテレビ番組がありました。
この紀行番組で、ルワンダを取り上げた回は特殊でした。
1994年、同国大統領が乗った飛行機の撃墜事件を機に、ラジオで扇動されたフツ族住民が、ツチ族とフツ族穏健派の近隣者を手当たり次第に襲って殺害しました。
80万人以上が犠牲になったといわれる大虐殺のニュースに震撼(しんかん)したのを覚えています。
番組はその後の再生の取り組みを描いたものでした。
私の記憶に残っているのは、虐殺した側のフツ族の男性が、負傷して何らかの施設の粗末な小部屋にいるシーン。施設を切り盛りするのは、見るからにたくましそうな現地のクリスチャンの女性です。
彼女が一人の少年に、その男性に食事を持っていくか何かの世話をするよう指示します。
少年はフツ族に家族を殺されたツチ族です。その関係性を承知の上で、女性は指示をし、少年は複雑な思いを抱えながらも従います。
「汝の敵を愛せよ」とは誰もが知るイエス様の言葉ですが、地獄をかいくぐり生き延びた少年に、その実践をもって立ち直らせんとする女性の姿に、大きな衝撃を受けました。
大虐殺から30年、4月6日付の読売新聞に、現在のルワンダの状況を伝える記事がありました。
ルワンダは、IT(Information Technology)立国として「アフリカの奇跡」と呼ばれる経済発展を遂げています。その大きな要因となった一つが、政府主導の和解政策です。
民族の識別を法で禁止し、差別を撤廃。12万人以上に及ぶ服役中の加害者を、社会復興を優先して減刑しました。
減刑の条件は被害者、虐殺の生存者への謝罪です。当然、謝罪の手紙を受け取っても被害者の多くは読む気にすらなれません。
そこをキリスト教の牧師たちがサポートします。
被害者の中には、許せないことへの罪悪感から、やがて受け入れるようになる人もいます。また犠牲になった家族を「弔いたい」思いから、加害者に遺体の場所を告白させるため、謝罪を受け入れることもあるそうです。
加害者は再教育を受けた後、社会復帰します。
政府が創設した「和解村」では、そんな加害者と生存者が隣り合って暮らしています。
「ご近所さん」として庭仕事や子供の世話で助け合います。キリスト教系団体も生活面を支援しています。
和解は「作為的」だとの批判や、加害者は心から悔い改めていない、などの指摘もあることは事実です。
許した被害者の気持ちも揺れることがあるでしょう。人間の心はそう簡単に割り切れるものではありません。
家族親族が残酷な殺され方をしたのです。心がついていくにはこの先何十年もかかるかもしれません。
でも、たとえ復興のためだとしても、これは本当に尊い試みだと私は思います。
天が後押ししたからこそ、ルワンダは奇跡的復興を遂げたのではないでしょうか。
このままプロジェクトが順当に進むことを祈ってやみません。
この試みの前には、日々の自分の葛藤があまりに小さく思えます。
橘幸世氏の書籍はこちらから。
◆『夫婦愛を育む魔法の法則』