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牧口常三郎、戸田城聖

(光言社『中和新聞』vol.508[1999年3月15日号]「日本17宗教人の横顔」より)

 『中和新聞』で連載した「日本17宗教人の横顔」を毎週木曜日配信(予定)でお届けします。
 日本の代表的な宗教指導者たちのプロフィル、教義の内容、現代に及ぼす影響などについて分かりやすく解説します。

牧口常三郎、衰弱と栄養失調で獄死
戸田城聖、創価学会を旗揚げ

 創価学会初代会長、牧口常三郎(渡辺長七)は、1871723日(明治466日)、船乗りの父・長松、母イネの間に長男として、現在の新潟県柏崎市に生まれました。両親が離縁したため、長七は、6歳の時に父の姉の嫁ぎ先でもある牧口善太夫の養子として入りました。

▲牧口常三郎(ウィキペディアより)

 小学校を卒業すると数年間、養父の家で働いていましたが、明治18年、14歳の時に向学心に燃えて北海道へ単身、旅立ちます。苦学しながら札幌師範を卒業、成績が優秀だったため母校付属の教師になりましたが、当時の実生活から遊離した地理教育にあきたらず、「自然と人生との関係」を探求する新しい地理学の研究に没頭、明治34年に上京後は、社会地理学としては先駆的意義をもつ「人生地理学」を刊行して好評を得ました。しかし、学閥に属さない独学の彼には学者のポストは与えられず、雑誌、教科書の編纂に従事したのち、再び教師となり、東京都内の小学校校長を歴任します。ちなみに、二代目会長・戸田城聖は、牧口が西町小学校校長の時に初めて出会っています。

 この頃までに、牧口は少なからず宗教遍歴がありましたが、昭和3年、芝の白金小学校の校長時、知人から折伏(しゃくぶく)を受けて、日蓮正宗に入信します。

 この日蓮正宗は、日蓮の六人の高弟のひとり日興(12461333)に始まるもので、日蓮の教義を純粋に守り、そのお墨付きをもつ正統派である、と主張して、身延を総本山とする日蓮宗をはじめ、他の日蓮の門流を邪宗とする宗派です。

 その教理は、江戸時代の大石寺第26世日寛によって体系化され、日蓮が書いて弟子に与えたといわれる「マンダラ」の板を「大御本尊」とし、題目を唱えてこれを拝むことにより、功徳を得ることができる、というものです。そして、大石寺にその本尊を祀る戒壇を国が建立する(国立戒壇)ことにより、「本門の本尊、本門の題目、本門の戒壇」の「三大秘宝」は実現し、王仏冥合の理想世界が築かれる、と説いています。

 牧口は信仰を得て、一層確固たる信念をもって創価教育学の研究に携わり、昭和14年、戸田城聖らと創価教育学会を結成します。

 さて、一方の戸田城聖は、1900年(明治33年)、211日、現在の石川県加賀市に、父・甚七、母・すえの七男として出生、11番目の子供だったので甚一と名付けられました。ちょうど30歳年上に当たる牧口と同じく、戸田は、生活の道を求めて北海道に渡り、そこで小学校教師となり、やがて東京に出てきて、やはり小学校教師になります。西町小学校で牧口に出会って以来、戸田は彼の人格に傾倒し、その教育観に共鳴し最も忠実な部下となり、よき片腕となっていきます。

▲戸田城聖(ウィキペディアより)

 「創価」という言葉は造語で、“価値創造”のできる人間を育成する、という教育学説から出ています。創価教育学会は着実に発展し、二人は布教活動に専心、座談会・総会も頻繁に開かれましたが、戦時下、宗教弾圧が始まり、昭和18年、治安維持法違反と不敬拝の嫌疑で伊豆下田に折伏旅行中の牧口が逮捕され、東京にいた戸田も高輪署に連行されました。

 牧口は昭和191118日、東京・巣鴨の拘置所で衰弱と栄養失調で獄死、享年73でした。戸田は獄中で日蓮宗聖典に全力で取り組み、法華経と唱題によって宗教的体験を積みます。敗戦直前の昭和207月、やせ衰えた体で保釈出所、急速に事業を展開していきます。戸田は元幹部らと創価教育学会の再建を考えましたが、師の牧口亡き今となっては教育は不要と考え、彼は教育の二字をとって、創価学会の看板を西神田の事務所に掲げました。

 戦前の弾圧で会員が総崩れになったのは、日蓮正宗の教義に弱く、教学に暗かったためであると考えた戸田は、再建の第一歩をまず教学を教えることから始めます。法華経の講義、座談会を活発にし、創価学会を旗揚げ、昭和265月には二代目会長に就任します。「価値創造」「生命論」「十界論」などを著し、「折伏こそ学会の使命であり、信条である」と説きました。

 昭和32年、公称75万世帯を達成し、翌年42日、肝硬変による心臓衰弱で58歳の波瀾に富んだ人生を閉じます。戸田の死後、2年間の空白をおいて、昭和355月、32歳の池田大作が第三代会長に就きました。

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 次回は、「長沼妙佼」をお届けします。