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出口王仁三郎

(光言社『中和新聞』vol.505[1999年2月1日号]「日本17宗教人の横顔」より)

 『中和新聞』で連載した「日本17宗教人の横顔」を毎週木曜日配信(予定)でお届けします。
 日本の代表的な宗教指導者たちのプロフィル、教義の内容、現代に及ぼす影響などについて分かりやすく解説します。

先見性に満ちたスケール
万教同根を説く大本教の教祖

 出口王仁三郎(でぐち・おにさぶろう/上田喜三郎)は、1871年(明治4年)827日(旧暦712日)、丹波の国・穴太(あなお、現在の京都府亀岡市)という山奥で、父・上田吉松、母・よねの五男三女の長男として生まれました。上田家はもともと富農で、7代前には日本画家で有名な円山応挙(上田主水)が出ていますが、喜三郎の生まれるころは、祖父らの道楽により、極貧にあえぐ境涯に転落していました。上田家には7代ごとに歴史的な人物が生まれるといわれていて、喜三郎がちょうど7代目に当たっていました。

▲出口王仁三郎(ウィキペディアより)

 喜三郎について話を進める前に、大本教の事実上の開祖である出口なおについて少し説明しましょう。

▲出口なお(ウィキペディアより)

 なおは天保7年に、やはり京都の福知山で誕生。まじめな働き者で、少女のころ、その親孝行ぶりを認められ、藩から表彰されたこともあります。夫・政五郎は、腕のいい大工でしたが、酒好きの放蕩で家財一切を失い、さらに仕事先で負傷して、半身不随ののち死去。長男は自殺未遂のあと行方不明になり、三女と長女は相次いで発狂するという不運に見舞われます。貧乏のどん底にあった56歳(1892年)の時、突然、なおは神がかり状態となり、不眠・断食が13日間続き、「三千界の立て替えを致すぞよ」という予言が飛び出しました。おのれに現れた神を識別できる優れた霊能者を求めていた時に喜三郎が現れ、最終的になおの末娘であるすみと結婚して、大本教の聖師(教祖)として立つことになります。

 さて、幼いころから神童と称された喜三郎は地元の小学校を卒業後、代用教員、住み込み奉公、牧夫などさまざまな職業を経た後、実業家として生計を立てていました。豪放磊落(らいらく)で義侠心が強く、親分肌の性格でした。父吉松が亡くなる明治30年ごろから、霊的なものに強い関心を抱くようになり、特に高熊山での7日間の断食修行と神秘体験以降は、それまでの放縦三昧の暮らしぶりが嘘であったかのように、正面から神霊の研究に取り組むようになります。

 やがて稲荷講社の長沢雄楯(かつたて)から鎮魂帰神の法を授けられて、「霊学会」を設立、会長の地位に。そんなある日、喜三郎が近くの小幡神社に参拝し神前で修行に励んでいると、「西北の方面にお前を待っている人がいるから、一日も早くそちらに向かえ」という神のお告げがありました。この神託に素直に従い、すぐさま西北の方角へ歩き出し、途中立ち寄った茶店で女将をしている出口なおの三女、ひさに出会うのです。なお自身も「自分に憑依(ひょうい)した神を審神(みわ)ける有能な霊能者が東から出てくる」と啓示を受けていました。

 ひさに依頼されるままに、喜三郎が綾部に赴き、なおと初めて対面したのは明治31108日のこと、喜三郎27歳、なおは63歳でした。両者は翌年7月に再会し、喜三郎は、稲荷講社の長沢雄楯直伝の鎮魂帰神法にもとづき、なおに憑(つ)いた艮(うしとら)の金神を審神けるとともに、「国常立命(くにとこたちのみこと)」という神名を授けました。これを境に、なおと喜三郎は深い信頼関係で結ばれるようになり、「金神の大本」という筆先から、大本という宗名も生まれます。このあと、喜三郎は持ち前の情熱と行動力をフルに発揮し、大本教団の組織づくりにまい進します。

 喜三郎の手腕を高く評価し、その人柄に感服したなおは、すでに「世継ぎ」と定めていた五女すみと結婚させました。挙式は明治33年正月、35年には喜三郎を王仁三郎と改名、「喜」は「鬼」に通じ、「おに」に「王仁」の文字を当てました。大正7116日、なお死去後は、硬軟とりまぜた戦略で黄金時代を迎えます。大正10年の第一次、昭和10年の第二次大本弾圧事件で受難を被りますが、宗教の根は一つであるという万教同根の教え、内蒙古への進出、世界への宣伝師の派遣や各宗教間の融和、大正日日新聞の発行、エスペラント語の研究、膨大な「霊界物語」の著述など、先見性に満ちたスケールの大きい活動を繰り広げました。

 戦後は、国境や民族の垣根を越えて全人類の光明世界の実現を説く人類愛善運動を展開しましたが、ついに病に倒れ、昭和23119日、すみ夫人の手に抱かれながら、77年の波瀾にみちた生涯を閉じました。

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 次回は、「牧口常三郎、戸田城聖」をお届けします。