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愛の知恵袋 184
信頼残高を増やす生き方

(APTF『真の家庭』305号[20243月]より)

松本 雄司(家庭問題トータルカウンセラー)

信頼を得るには時間がかかるが、失うのは一瞬

 最近、大手の中古自動車の販売買取会社が、客の信頼を裏切るような卑劣な方法で多額の修理代の不正請求や損害保険の不正申告をしていたことが露見し、一気に信用を失って倒産の危機にまで追い込まれている。

 更に、誰もが知っている大手自動車会社が、長年にわたって自動車の安全性試験を虚偽申告して製造販売していたことが露見し、大問題になっている。

 このように不誠実によって信用を失うのは、大会社でも個人でも同じである。長年の結婚生活が、暴言・暴力・不倫などで一瞬にして破綻してしまうこともある。

 また、近年は人間の射幸心をあおるお手軽ビジネスがあふれている。「簡単で短期間で高収入」を謳うネット情報や各種説明会やセミナーも多くみられる。

 幾人かの成功したという人物の話も喧伝されるが、大多数の人は時間と労力を費やした割には、骨折り損のくたびれもうけに終わっているのが実情である。

 結局、真の成功というものは、目先の欲心で動いても成就しないようである。

信頼関係が重要なのは企業も家庭も同じ

 「信用」というものは何年も何十年もかけて、誠心誠意の積み重ねによって築かれるものである。その信用によって、人々から信頼され愛されて事業が成長し、且つ継続できるのである。

 世界的なベストセラー『7つの習慣』の著者、スティーブン・R・コヴィー博士は、「事業であれ、家庭であれ、あらゆる人間関係において最も重要なものは“信頼”である」と言っている。

 博士は、私達が「相手からどれだけ信頼されているのか」の指標を示す言葉として「信頼残高」という言葉を使っている。

 相手との信頼残高が高ければ、その人との交渉は簡単で効果的で即時に成立する。しかし、信頼残高が低ければ、交渉は難航し、良い成果は得られない。

 実はこの点では、事業においても家庭内の人間関係でも同様のことが言える。

 私達が人生における真の成功を収めるには「仕事」と「家庭」の両面において成功する必要があるが、そのすべての鍵を握っているのが「信頼関係」である。

 従って、目には見えない財産である「信頼残高」こそが最も大事な財産である。

信頼残高を増やすには、どうすればよいのか

 では、「信頼残高」という大切な財産を増やすにはどうすればよいのだろうか?

 言うまでもない。“残高”を増やすためには預金”をすればよいのだ。

 毎日の私達の行動が信頼銀行の預金にもなり、引き出しにもなっていくのである。

 コヴィー博士は、「信頼残高を増やす六つの預け入れ」を述べておられる。

①相手を理解すること
 良かれと思ってやっても相手が喜ばないことがある。相手の望んでいることを察して対応する。例えば、子供が数人いたら、一人一人の事情と期待に応じた違う接し方をしてこそ公平になる。

②小さなことを大切にすること
 小さな心遣いと礼儀が大切であり、無礼や不親切は残高減少になる。

③約束を守ること
 相手との約束を守ることは預金になり、破ることは引き出しになる。

④期待を明確にすること
 会社で上司と部下や同僚同士が役割分担をあいまいにして仕事を始めれば行き違いと混乱を起こす。同じく、家庭では夫と妻はそれぞれ役割に対する暗黙の期待を持っていて、その期待に照らして相手を評価し裁いてしまう。だから、よく話し合い、何をどこまでやるか分担を明確にしたほうが良い。

⑤誠実さを示すこと
 個人的な誠実さが信頼預金の基礎になる。例えば、人の陰口は慎むこと。「あなただから特別に」と言って打ち明けられた秘密は人に漏らさないこと。

⑥残高を失った時には、誠意を持って謝ること
 「しまった!」と思ったら、直ちに誠意をもって謝ること。「ごめんなさい」「申し訳ありません」と、素早く心から謝れば信頼残高を回復できる。
 つまり、仕事の世界でも家庭の人間関係でも、共通するのは次のようなことだ。

・信頼を高める行動…礼儀正しさ、親切、相手への配慮、正直、約束を守る。
・信頼を損なう行動…無礼な態度、不親切、自分勝手、過剰反応、約束を破る。

 さて、今の自分はどうだろう。家族一人一人との関係で、また、仕事上の人間関係で、相手から見てどれだけの信頼を得ているのだろうか? よく考えてみたい。

 もし「まだまだ不足だな…」と感じたとしても悲観することはない。今日からでも生き方を転換し、信頼残高を増やすための努力を積み重ねていけばよいのだ。

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