2024.04.12 22:00
愛の知恵袋 185
乳児は肌を離すな、青年は心を離すな
松本 雄司(家庭問題トータルカウンセラー)
「子供との関係が疎遠になって悲しい」というご夫婦
中高年のご夫婦たちと話した時のことです。ある母親が、「苦労しながら育てた子供なのに、県外に就職してからは連絡もなく、メールを送ってもそっけない返信しか返って来ないんです。子供がはるか遠くに行ってしまったようで、とても悲しいです…」と心境を吐露されました。
別の母親が「男の子の場合は、そういう子が多いですよ」と言うと、「それが…息子だけではなく、娘もそうなんです」というので、共にいた親たちも皆、「う~ん、それは寂しいね~」と同情しました。
その後、まだ子育て中の父親から、「親は家族を食べさせていくために必死で働かなければならないし、子供との絆もしっかり結ばなければいけないし、どうすればいいんでしょうか」という話がでて、いろいろな成功談や失敗談を打ち明けながらの話が続きました。
さて、子育てにおいて大切だと言われるのが「子供との向き合い方」と「適切な距離感」です。その点について、私がとても参考になった言葉があります。
『乳児は肌を離すな。幼児は肌を離しても手を離すな。少年は手を離しても目を離すな。青年は目を離しても心を離すな』
この言葉は20年ほど前、私が著書を出版した時に推薦文を書いて下さった親業訓練協会常務理事でスクールアドバイザーの江畑春治先生が「先人の言葉」として引用して下さったものです。調べてみると、山口県の教育者が提唱した「子育て四訓」で、言葉の由来はネイティブ・アメリカン(インディアン)の伝承のようです。
乳児は肌を離すな、幼児は肌を離しても手を離すな
まず、誰もが知っているように、子供が幼い時にはおんぶや抱っこや頬ずりなど、スキンシップをしっかりとしてあげることが大切です。親とのスキンシップによって、安心感、愛されている実感、自己肯定感などが深まり、親に対する愛情や信頼感も増進します。
そして、嬉しい時も悲しい時も、親からしっかりと抱きしめてもらえることで、親と子の心理的な絆である「愛着」が形成され、これが身体、言語、社会性などの諸能力が発達する基礎になります。
また、幼児期になると外出する機会が増えますが、まだ危機対応能力が未熟なのですから事故に遭わないように、手はしっかりと握っていてあげましょう。
少年は手を離しても目を離すな
少年と言えば、今では小・中・高校生の時期に当たるでしょうか。
小学生になると自立心が芽生え始めて、親にべったりはしなくなります。それでも、時々は手をつないだり、肩を抱いて励ましたり、握手したり、ハイタッチをしたりというような形でのスキンシップはできますね。
中・高校生になると更に自立心が強くなり、関心は親よりも友人に向かいます。親とは距離を取ろうとしますが、内面には依存心もあって繊細な心理状態です。
また、思春期に入るので異性を強く意識するようになり、自分の容姿や能力を他人と比べて劣等感に陥って悩んだり、将来の進路が決められずイライラします。
この時期は過干渉は禁物です。自主性を尊重し、側面的サポートに徹し、相談を受けた時は丁寧に乗ってあげて、親と子の信頼関係を保つようにしましょう。
また、この年頃は親に反発したり、心に秘密をもつようになります。親に内緒で友達と様々な所に行ったりしますので、しっかりと見守ってあげることが必要です。
青年は目を離しても心を離すな
青年と言えば、今では高卒後の学生時代や独身青年期に当たるでしょうか。
現代では、高校を卒業すれば、進学にせよ就職にせよ、親元から離れて暮らすことが大半です。親が見守ろうとしても、もう目が届きません。どこで誰と会い、何をしているのかも分かりません。
親とすれば心配ですが、青年期というのは不安や葛藤と闘いながら、自立して自らの意志で人生を切り開いていく挑戦の時期ですから、避けては通れません。
大きく子供を信頼してあげると共に、“心の目”でずっと見守ってあげましょう。ひと昔前は、連絡を取るには手紙か固定電話しかありませんでしたが、今は有難いことに携帯電話があり、ライン通話やメールで交流できます。
私の子供たちもある時期、1人は外国、1人は東京にと離れて住んでいて連絡が大変でしたが、ラインが利用できるようになってからは、本当に助かりました。
誕生日のお祝いを伝えたり、物を送ってあげたり、時間の取れる時には近況を話し合ったり、健康を気遣ってあげたりすればよいと思います。
要は、あなたを見守っているよ、信じているよ、愛しているよ…という家族の温かい心が伝わればよいのです。