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シリーズ・「宗教」を読み解く 307
修道院の祈り⑤
選民の祈り

ナビゲーター:石丸 志信

 聖ベネディクトの修道院で時課の祈りに用いられるようになった詩篇150篇は、聖書に収められた賛美歌である。

 イスラエル民族の中で紀元前1000年頃から、数百年間歌い継いできた歌を集め、ユダヤ教の典礼に用いられていたものだ。

 王が詠んだ歌もあれば、名もなき民の歌もある。どのような身分の者であろうと、歌人は共に神の救いの御業(みわざ)を見た神の民にほかならない。
 それらが一つに束ねられ、イスラエル民族の賛美となっている。

 この伝統をキリスト教の伝統に引き込み自らの賛美歌とした。
 それによって、キリスト教はユダヤ教の伝統を引き継いだ新しいイスラエルだとの自覚を誰もが持ち得るものとなった。

 詩篇のタイトルに「ダビデの歌」と記されたものが多い。ダビデ王の作だという歌もあれば、その生涯のエピソードを想起させるもの、彼の精神を反映した歌もある。

 また、中には平和の王の戴冠式を祝う内容もある。イスラエルの民がこれを歌うとき、ただ、歴史上に現れた偉大な王ダビデを追慕するだけでなく、新たにイスラエルを治めてくれる理想の王、平和の王の到来を待望しながら祈ることになる。

 一方で、キリスト教の伝統の中で詩篇を歌うとき、そこには、ダビデ王の記憶と共にイエス・キリストの姿を重ねながら祈ることができる。

 イスラエルの民が培ってきた伝統の上に立つキリスト教徒は、救いの歴史の進展に伴い新たな視座が開かれたので、同じ賛美の言葉を唱えても、より高く、深く、広い心でささげることができる。

 ダビデ王を見つめながら、来るべき王の到来を待ち望んできた祈りが、メシヤ・イエスを迎えた喜びと再び来られる主を待望する祈りへと変えられていった。

 時を聖化するために用いられた選民の祈りは、新たな視点に立って継承されながら、信仰共同体の自覚を高め、1000年、2000年と継続し発展することができる、揺るぎない柱となった。



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