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心をのばす子育て 26

 アプリで読む光言社書籍シリーズとして「心をのばす子育て」を毎週土曜日配信(予定)でお届けします。
 子育ての本質を理解し、個性に合わせた教育で幸せな家庭を築くための教材としてぜひお読みください。

長瀬雅・著

(光言社・刊『心をのばす子育て7つのポイント』〈2002210日第2版発行〉より)

4、情の教育

■早期教育・英才教育

 幼児期に議論になるのが「英才教育」です。1997年に中央教育審議会が、現代の教育で「家庭教育」「心の教育」「早期教育」「父親」という四つの問題点を出しました。この早期教育が英才教育とも言われるものです。

 早期教育の問題点が幼稚園から起こりました。幼稚園ではよくケンカが起こります。
 ケンカになると、早期教育を受けている子は幼稚園にある本棚に行って本を読み出すというのです。つまり、本の世界に没頭することで現実から逃げるのです。それを先生が引っ張り出して、友達と遊ばせようとします。ところが、ふっと気がつくとまた本の所に戻っているのです。その子供は人間関係をつくれなくなっているのです。
 これは、早期教育では将来の勉強を先がけるために「読み書き」を重点的にやるからです。それにこの教育は親が与えるものですから、子供の自発性は育ちません。受け身なのです。
 与えられたことは上手にこなせても、自分からやりたいことを見つけて行動するのは苦手な子供になっているのです。

 英才教育を受けている子供の中で全国トップの子供は、小学校2年で微分積分ができるのだそうです。しかし、この子がこの先順調にいくかどうかは分かりません。
 確かに幼・少年期は好奇心をもつとよく覚えます。すごい記憶力で大人を驚かせることもしばしばあります。ところが小さいころに覚えたことは、大人になるとほとんど忘れてしまうのです。
 小学生のころに昆虫が好きで絵本を見ながら全部覚えていた子供が、いざ生物の時間になったらほとんど忘れていたというものなのです。小学校2年生で微分積分ができても、それが本当に必要なのは高校時代です。この微分積分を高校までつなげていくには、ずっと微分積分をやるしかありません。
 それはある意味でつらいことであり、大きな問題です。なぜならその時に学ばなければならないものを犠牲にしているからです。
 幼稚園のころから頑張って東大に入るのも、小さいころは伸びやかに育って高校から頑張って東大に入るのも同じ東大生です。

 もう一つの問題は、小学2年生だと学校では掛け算が始まったところです。微分積分ができる子供にとって、それは物足りなく感じます。その結果、先生と学校をバカにするようになり、授業を聞かなくなります。
 英才教育は先取り教育ともいって、最初はほかの子供より進んでいますが、先取れるのはせいぜい中学か高校までです。中学生くらいになると、ほかの子に追いつかれ始めます。
 今まで一番だった成績がある時二番になり、五番に落ちます。それは非常にショックです。天才児だと言われていたプライドが許さないのです。
 そのプライドを保つために不登校になる場合があります。もともと学校の勉強をバカにしていたので、不登校になる可能性は高いものがあります。そうして崩れていくのです。

 「十で神童、十五で秀才、二十歳過ぎたらタダの人」と言います。子供の成長はあまり焦らないことです。大器は晩成するのです。
 子供の成長全体を見ながら今を見つめないと失敗します。子供を育てるというのは、勉強ができるようにすることだけを言うのではありません。子供の頭に知識を入力するだけなら、早くから大量に入力すれば効果があるでしょう。しかし、「育てる」ことに注目すれば「時」があります。時が来るまで、準備しながらも「待つ」という姿勢が必要です。

 昔から「習い事は6歳から」と言われてきました。この言葉は能の教育書ともいうべき『風姿花伝』という本の中にあります。能や歌舞伎などは幼児期から訓練をするので、子供の能力を開発するためのノウハウが詰まっています。
 ところが最近の英才教育では早く始めないといけないと言います。その例にイチローやタイガー・ウッズの例が出されます。
 イチローは3歳でボールを握ったとか、タイガー・ウッズも3歳からゴルフをやったと言います。でもイチローが6歳から野球をやったら、今みたいな一流になれなかったでしょうか。
 それに3歳から野球をやっていた子は全国には数多くいます。しかしすべての子が一流にはなりません。一部の例だけを取り出して、3歳から始めないといけないという理由にはならないと思います。
 3歳でも子供の興味・関心が野球に向けばやらせてもかまいませんが、親が無理やりやらせるのであれば問題が出てきます。3歳でなければダメということはありません。焦らないことです。
 ただ、イチローもタイガー・ウッズも、環境がなければその才能が開花しなかったことは確かです。ですから親としては環境を与える必要はあります。
 ただ、子供の情がその方向に向くかどうかは分かりませんし、親としてそれを強制することはできません。それは子供自身の問題なのです。

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 次回は、「心の知的教育」をお届けします。