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スマホで立ち読み Vol.30
子どもの心をひらく 4

村上小夜子・著

(光言社・刊『子どもの心をひらく』〈20161030日初版発行〉より)

 スマホで立ち読み第30弾、『子どもの心をひらく』を毎週月曜日(予定)にお届けします。
 長年、幼児教育に携わってきた村上小夜子・光の子園副園長が、その経験から得た内容を紹介しています。「ねばならない」「こうあるべき」という教育から、子供が本来持っている神性を引き出す教育へと転換する方法をお伝えします!

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1章 したいことをさせる

好奇心旺盛な子ども

 4月、入園当初に起きた出来事です。毎朝ある園児が、園に到着すると、すぐに部屋を飛び出していました。「ここがあなたのクラスでしょ!」と言って聞かせても、全く聞き入れませんでした。いろいろな部屋を渡り歩いて、クラスに戻ってきても、ウロウロして落ち着きませんでした。どんなに言葉掛けをして遊んであげてもだめでした。それが数日続いたので、保育士もたまりません。

 この園児は、体験入園の時、玄関に靴を脱ぎ捨て、洋服を脱ぎっぱなしにして、お母さんにどなられていました。様子を見ていると、園児が動くたびにお母さんが「だめよ!」「こうでしょ!」と言うのですが、園児は、お母さんの話を聞いていませんでした。帰る時には、お母さんは大変疲れきった様子でした。

 そんなことも振り返ってみて、いろいろな方策を練りました。他の保育士にも聞いてみると、すべてのクラスに顔を出していたことがわかりました。そこで、まず、その子が問題児だと決めつけるのではなく、担任が母親の立場で、お世話になっているクラスのみんなに頭を下げることにしました。「うちの○○くんが毎日お世話になっています。ありがとうございます」。

 また、頭ごなしの叱り方はやめて、保育士がその子に付いて回り、彼が何に興味があるのか、確認することにしました。

 その子は、登園してすぐに教室を飛び出すと、初めに廊下に貼ってある壁面画の前で立ち止まり、一つ一つを見ながら「これはお花だね。これはちょうちょだよ」と話をしてくれました。さらに、他のクラスに行っては、ニコニコしながら、ロッカーや机や椅子などにタッチ。そして園児たちの周りをぐるりと回って部屋を出ていくのでした。それはそれは、興味津々の顔をしていました。

 こうしてこの子に付いて回ってみると、この子は好奇心が旺盛で、お話をすることが大好きだということがわかりました。それで、「光の子園に何があるのか、見たかったの?」と聞いてみました。すると、そうだと言うのです。「行ってもいいよ。終わったら戻ってきてね、ここがあなたのクラスだから」と話しました。その子は「わかった!」と言ってにっこり笑いました。

 それからは毎朝一人で探検に出掛けて行き、「ただいま!」と部屋に戻るようになりました。それが数日続きました。そして、クラスにいても落ち着くようになり、先生の話もよく聞くようになりました。

 もしこの子が教室から飛び出した時に、頭ごなしに叱ったりして、一緒に付き合わなかったら、どうなっていたでしょうか。いつまでも「落ち着かない子ども」というレッテルを貼っていたかもしれません。

 子どもは、好奇心が旺盛で、周りのことを考えずに、自分のしたいこと、関心のあることを、どんどんやろうとします。しかし大人の私たちは、カリキュラムやスケジュールをこなそうとしますから、それから外れる子どもの言動を容認できないことがあるのです。ともすると、「この子は多動性障害(ADHD)ではないか」と間違って判断してしまいがちです。

 その子は、成長していくにつれて、正義感が強くなり、困っている子がいたら、すぐに手を差し伸べる子になっていきました。年長組になった時です。アメリカから引っ越してきた子が困っていると、英語しか話せないその子を、身振り手振りで一生懸命助けてあげました。そして、仲良しの友達になったのです。

 子どもの考えや行動に対して、頭ごなしに止めるのではなく、まずは「容認」して、心情に寄り添い、共に行動することが大事です。そういうところから、その子の本性、神性が引き出されてくるのです。

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 次回は、「愛情を求めるサイン」をお届けします。



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