世界はどこに向かうのか 282
イスラエル・ハマス戦争～イランがイスラエルに報復明言

2024.01.23 12:00

世界はどこに向かうのか
～情報分析者の視点～

イスラエル・ハマス戦争
イランがイスラエルに報復明言

渡邊芳雄（国際平和研究所所長）

　今回は、1月15日から21日までを振り返ります。

　この間、以下のような出来事がありました。

　イエメンの反政府勢力フーシ派がミサイル発射、米船直撃（1月15日）。韓国は「第一の敵国」、金正恩（キム・ジョンウン）総書記が憲法改正表明、戦争も辞さず（15日）。北朝鮮外相、プーチン氏と会談（16日）。中国、台湾周辺で大規模軍事活動（17日）。「共存」改めて拒否、イスラエル首相（18日）。シリアでイラン革命防衛隊幹部ら5人死亡、イスラエルの空爆か（20日）。イラン大統領、対イスラエル報復を宣言、シリアの革命防衛隊幹部死亡（20日）、などです。

　イランのライシ大統領は1月20日、シリアでイランの軍事顧問5人がミサイル攻撃により死亡したことを受け、イスラエルの攻撃であると断定し、報復を明言しました。
　昨年12月にも、イラン革命防衛隊の上級軍事顧問がイスラエルによる無人機攻撃によりシリア・ダマスカスで殺害されています。ハマスの背後のイランへの対抗です。

　ハマスによる残虐な軍事攻撃への報復として、イスラエルによるガザ攻撃が始まってから100日が過ぎました。
　パレスチナ自治区のガザ地域だけでなくヨルダン川西岸でも、昨年10月以降、300人以上がイスラエル軍に殺害され、経済封鎖も続いています。ハマス支持者ら5980人が拘束されているのです。
　さらに西岸の労働者がイスラエル領内に入るのは禁じられ、約20万人の労働者が職を失ってしまいました。

　イスラエルによるガザ戦闘で、軍は14日、「ハマス戦闘員9000人を殺害」したと戦果を公表。ガザで攻撃した場所は約3万カ所、戦闘員約2300人を拘束したことも報告しました。
　ガザの保健当局の発表では、ガザでの死者は14日現在、2万3968人で、負傷者は6万582人となっています。

　しかしイスラエルの「ハマス壊滅作戦」は未達成です。人質は昨年11月末の戦闘休止で105人が解放されましたが、約130人が残されています。
　ヤヒヤ・シンワル氏らガザのハマス指導者たちは殺害されておらず、ハマスの徹底抗戦は続いています。戦闘は泥沼化と言っていいでしょう。

　戦闘の長期化に伴い、一部国民の間では「達成できない目標を掲げている」との認識が広まりつつあるといわれます。しかし国民の間に厭戦（えんせん）ムードの高まりはありません。
　米国がイスラエルに求める戦闘の縮小については、ユダヤ系イスラエル人の75％が反対を表明しています。イスラエルを奇襲し、人質を解放しないハマスへの反発は根強いのです。

　イスラエルのネタニヤフ首相は21日、パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するハマスが求める停戦条件を、「拒否する」との声明を発表しました。
　ネタニヤフ氏は声明で、「はっきりさせておく。ハマスの求める降伏の条件は完全に拒否する」と宣言。ハマスは人質の解放と引き換えに、ガザからのイスラエル軍の撤退、ハマスの戦闘員の釈放、ハマスの存続を求めている、と説明したのです。
　ネタニヤフ首相は、こうした条件に対し「同意すれば、われわれの兵士が無駄に倒れたことになる。市民の安全を確保することもできない」と訴えました。

　ハマスの背後にあるイランの動きも活発になってきています。
　イランは、イエメンの反政府勢力フーシ派を全面支援しています。そのフーシ派は、イスラエルによるガザ進攻への抗議として、紅海で一般船舶への攻撃や拿捕（だほ）を繰り返しています。昨年11月には日本郵船が運行する商船が拿捕され、いまだ解放されていません。

　多くの海運会社は紅海での運航を取りやめ、アフリカ最南端の喜望峰経由のルートに変更しています。
　輸送日数は10日以上増えるといいます。物流コストの増大による世界経済への悪影響は計り知れないのです。

　対抗として米英軍が1月11日、フーシ派攻撃に踏み切りました。
　イエメン国内16カ所を標的に100発以上の精密誘導弾を撃ち込んだのです。
　今後イランがどのような動きを見せるか。中東全域を巻き込む紛争へと広がるかもしれません。

　最後にイスラエルの「強さ」の要因は事実上の核保有国であることも付け加えておきたいと思います。