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小さな出会い 11

 アプリで読む光言社書籍シリーズとして「小さな出会い」を毎週月曜日配信(予定)でお届けします。
 家庭の中で起こる、珠玉のような小さな出会いの数々。そのほのぼのとした温かさに心癒やされます。(一部、編集部が加筆・修正)

天野照枝・著

(光言社・刊『小さな出会い』〈198374日初版発行〉より)

いちばんいいところ

 バーゲンで子供たちの食器を揃えました。喜びそうな色と絵柄をあれこれ考え選んだのです。そして夕食、どんな笑顔をするかしらと楽しみに盛りつけて出したのに、がっかりするじゃありませんか。けんかになっちゃったんです。

 「あっちがいい! ウルトラマンのがいい!」

 「どうして。いつもキャンディが大好きなのに。とってもかわいいピンクでしょう?」

 「やだーっ!」

 実力で食器を奪おうとする娘、泣きながら夢中で取られまいとひっぱる弟。あわてて制したのも遅く、お皿は宙に舞って中身は飛び散って…。なぜか私はドッと疲れてしまい、いつものように叱る力も出なかったのです。

 「どうしてあの子には、してやることが裏目に出るのかしら」

 翌朝、夫に話しました。

 「うーん。それについて考えたことあるんだけどね。えみちゃんも心がほぐれていると、とってもひろくんをかわいがるんだよ。

 僕たちは結果でパシンと裁(さば)いてしまいがちだけど、やっぱりなぜなのかと動機を見て、そこを解いてやることが大切なんじゃないかな」

 と、いつもより明快な答え。更につけ加えて、

 「あの子の一番いい所を見つけることさ。僕たちを神様が見てくれている見つめ方のようにね」

 とても新鮮に心に響いたのです。“神様が私を見つめているように…”

 その言葉が呼びおこす温かさの中に、敬愛する大先輩の、山路ママと呼ばれている御夫人の笑顔を描きました。

 その方は霊的な感性が豊かで、一人ひとりの個性の特徴を、男性なら木、女性なら花として霊眼で見ることができます。どこへ行っても、“命の花”を知りたいという人がおしかけ、御病体なので最近は断(ことわ)っておられるようですが大変です。

 けれども多くの人たちがどんなに山路ママによって慰められたことでしょう。それは、自らも知らなかった本当の自分の、珠玉のような、汚(けが)れのない価値を教えられるからなのです。

 「あなたは白い藤(ふじ)の花。とても高貴な花で……」

 と話し出されたとたんに泣いてしまった姉妹がいました。その頃自分の罪が見えて悩んでいたからです。私も、花の名を教えられた時、静かな勇気が湧いたのでした。ああ、この天から頂いた命を磨こう。今は罪でさびついていても、きっと本性の美しい輝きをとりもどそう、と。

 一番いい所を見つけるというのは、こういう価値を感じなくては。その上で個性をも知ることができるのでしょう。“男子、己を知る者のために命を惜しまず”という言葉がありますけれど、真実の自分を理解し、許し、味方となってくれる存在がある喜びは、その人の生き方まで変えていくにちがいないと思います。その時、他との比較の範疇(はんちゅう)でしか物を考えられない狭いうろこが目から取れて、その人だけが持っている宝を、きっと見つけられるでしょう。

 子供の数がふえても、親にとってその一人ひとりはかけがえのない大切さなのです。そこが親のありがたさなのですね。そんな素朴な気持ちに返らなくちゃ——。しみじみそう思いました。

 「おはよう!」と娘を強く抱きしめたら、何と、「ママ。キャンディちゃんのお皿で食べるよ」と寝ぼけ声がきこえました。

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 次回は、「三度めのお産」をお届けします。