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心をのばす子育て 16

 アプリで読む光言社書籍シリーズとして「心をのばす子育て」を毎週土曜日配信(予定)でお届けします。
 子育ての本質を理解し、個性に合わせた教育で幸せな家庭を築くための教材としてぜひお読みください。

長瀬雅・著

(光言社・刊『心をのばす子育て7つのポイント』〈2002210日第2版発行〉より)

3、一人前の人間に育てる

■心の成長の流れ

 心の成長は「情」から始まります。この教育は家庭が中心です。情操教育というと音楽とか美術を思い浮かべますが、基本的には子供の情がスムーズに流れるかどうかという「情の解放」に注目すべきです。
 情が解放されている子供は顔を見るとすぐに分かります。喜怒哀楽がすぐ顔に出ます。怒っている、苦しんでいる、悲しんでいるなどの感情がすべて顔を見た瞬間に親に伝わる子供は情が解放されています。
 解放されている子とは「やりたいこと、言いたいこと」が何の恐れもなくできる、言える子供です。それは、親にとって気に入らないことでも平気で言えるということがポイントです。親に対して時には「イヤ」と平気で言える子供です。
 ただし、あくまで時々の話です。ずっと「イヤ」ではまた別の意味で問題です。親子も人間関係ですから、子供も親も時には腹の立つことがあります。そういう時に、その不快な感情を何の不安もなくすっと親に言えるというのは、信頼関係ができているということです。親との信頼関係ができていなければ、絶対に親に逆らうことはできません。
 このように何の不安もなく自己主張ができるかどうかが大切です。

 「知」の教育には、頭の部分と心の部分の二つがあります。心の教育というととかく学校の勉強と対立するように思われがちですが、学校の勉強を否定するということはありません。
 勉強はしなければいけません。ただ、勉強というとインプット(入力)することを意味します。
 ところが、もう一つ、学んだことを出すという作業もあります。これが創造性、工夫、個性、才能という「知性」です。ですからこの二つは「知識と知性」という言い方をしてもいいと思います。
 今、学校教育で欠けているのが知性を育てる教育です。今までの試験は知識の量を判定してきました。しかし、コンピューターが発達した現在、知識や情報は誰もがすぐ手に入るようになってきました。どんなに覚えてもコンピューターにはかないません。これからの時代はこの情報の量ではなく、情報を判断する知性が必要になります。

 この知性の中で最も大切なものが「創造性」です。その人独自のものを生み出す能力です。どんな才能をもっていても過去のものをまねているうちは評価されません。
 過去の土台の上に、自分独自のものを加えることが大切です。これが創造性です。創造性は無から全く新しいものを生み出すことではなく、過去の土台の上に積み上げるものです。
 ですから最初の勉強は過去のものを学ぶのです。知識がないと創造性は具体化されません。

 家庭が情をつくっていく場所なら、学校は主に知的な部分を担当します。親が小学生の子供の勉強を見ることがありますが、よくケンカになってしまいます。その理由は親子の関係は情的関係だからです。
 親が子供の勉強を見ると情が出てくるので「何でこんなことが分からないの!」と怒ってしまうのです。子供のほうも情が出るので甘えます。「分からない」とか「もうやりたくない」と言いながら勉強が進みません。それを見て、また親が怒るのです。

 ですから「知」の部分を育てるには他人が必要なのです。他人がやることによって、お互いに冷静になれるのです。先生も人間ですから嫌いな子もいれば好きな子もいます。それを理性で抑えて平等に教えるのです。子供も先生は他人ですから、自分のわがままを抑えて、嫌な勉強でも頑張ってやろうとするのです。
 ですから知的教育や能力を育てるための先生、師は他人のほうがいいのです。親と先生の立場を一緒に行うのは難しいことです。どちらかに偏ってしまうからです。ですから子供の成長にとって他人が教えるという意味では学校は絶対に必要です。

 心の知的教育を「躾(しつ)け・訓練」と言います。この躾けも「外的な躾け」と「内的な躾け」があります。
 外的な躾けは、整理整頓(せいとん)、食事、あいさつというような基本的生活習慣・基本的人間関係です。これは幼児期から始まりますが、主には家庭で躾けます。
 もう一つの内的な躾けとは「人間性」と「自己コントロール」です。なぜなら、子供から流れ出た情が、間違った自己中心的な主張ばかりであっては社会で生きていけないからです。
 そのためには、善悪観、社会のルール、性のあり方と言った人生観を教えなければなりません。今、日本の子育てで欠けているのは内的な躾けです。子供に躾けるべき人生観が分からないからです。
 また、自己コントロールの中で大切なものは「責任感」です。自分の行動に責任をもてる人が一人前の人間だからです。

 そして最後に「意」を育てます。意とは本人の意欲、やる気です。社会に出て自分は何をするのかといった「目的」を身につけることです。
 そのためには、自分が社会に出るための社会性を身につけなければなりません。社会性を身につけながら、自分のやりたいことを見つけるのです。目的をもつことによって、やる気が啓発されます。
 また、社会性とは自分一人で生きているわけではないということを悟ることです。社会性をもつことによって自己中心性を乗り越えます。

 ここで注意すべきことは、ここまで挙げてきた「愛情、創造性、主体性、責任感、社会性……」は、あくまで子供が一人前の人間になったときに身につけるべきものです。
 子育ての途中では、それぞれを目指して躾けや訓練を始めるのだ、ととらえてください。小・中学生に完全性を要求するのは無理なことです。

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 次回は、「心の育っていない現代の子供」をお届けします。