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小さな出会い 6

 アプリで読む光言社書籍シリーズとして「小さな出会い」を毎週月曜日配信(予定)でお届けします。
 家庭の中で起こる、珠玉のような小さな出会いの数々。そのほのぼのとした温かさに心癒やされます。(一部、編集部が加筆・修正)

天野照枝・著

(光言社・刊『小さな出会い』〈198374日初版発行〉より)

子供番組のこと

 「たまには行ってみようね」

 「わぁーい!」

 二子玉川園の入場券をもらったので、子供たちと行ってみました。仮面ライダーと宇宙刑事ギャバンが出演するので、広場は子供づれでいっぱいでした。

 ショーが始まると、突然、無気味な音楽。ワニや怪物の頭をした手下どもをひきつれて、黒マントの悪魔が出てきたので、5歳の娘はガタガタふるえはじめました。

 「それ、子供たちはみんな人質(ひとじち)にしろ!」

 怪物たちがバラバラと舞台からとびおりるのを見て、娘はこの世の終わりのような悲鳴をあげ、いちもくさんに逃げ出しました。何と、泣きながら二子玉川園の入口まで逃げていったのです。まわりの大人は大笑いしていました。

 それから2日くらいは、思い出しては身震(みぶる)いして食が進みません。

 「あんなの頭にかぶっているだけなのよ。怪物なんていないの。食べなさい!」

 そういう私だって、小さいころエノケンの「西遊記」を見て、ちょうどこんなに怯(おび)えたのです。天竺(てんじく)への道中、怪物どもに石にされたり、鍋で煮られそうになったりする光景が恐ろしくて、しばらくうなされたものです。

 ショーの怪物にしろ、西遊記の怪物にしろ、紛れもなく地獄の光景だと思います。呼べばやってくるわれらのヒーローが、こてんぱんにやっつけてくれる筋書(すじがき)を知っているから、楽しんでいられるのです。

 それにしても、このごろの子供番組の悪役はまさに妖怪変化(ようかいへんげ)。私がとても怖いと思うのは、怪物がふつうの人間に化けているというストーリーです。美しい先生が実は地球征服をたくらむ化け物だったりして、サッと顔をはぐと醜悪な正体があらわれたりするのです。小さな子にこういう恐怖は根深く残るのじゃないかしらと思います。

 そういう番組をみた夜のこと、私が子供を寝かせながら、ふと昼のできごとを思い出して笑ったことがありました。すると急に、「ママはおばけなの?」と3歳の息子が泣きそうな声で言いました。

 「ママ、ふっふっふっ、て笑わないでぇ」

 これには参(まい)ってしまいました。

 TVマンガのヒーローは、オモチャ会社の商業ペースで次々に変わっていきます。サンバルカンのおもちゃが売りつくされると、ゴーグルVが出てくるというわけです。私も、のせられてしまって失敗したことがあります。

 ドラえもんの背中にミニレコードをはめこんで、パチンと押すと「マルかいてチョン」と歌い出す“お絵かきうた”というおもちゃを買いました。ところが1日使ったらもう故障。機械が複雑で直せないのです。おもちゃ一つの直しにあちこち行ける時間もないのに……。

 高価な電池のおもちゃは、「私をこう使え」と命令します。それ以外の遊び方はしてくれません。おもちゃが子供を規制するのです。それからは、このたぐいのおもちゃを買いたくなった時、ウンともスンともいわないでくのぼうのそのドラえもんを、にらんでやるのです。

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 次回は、「ああーピンクのカーネーション」をお届けします。