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世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

李克強前首相の死去、経済混乱と「合わせ鏡」

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、1023日から29日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。

 青少年に有害、米各地でメタ(旧フェイスブック)を提訴(24日)。米下院議長、ジョンソン議員選出(25日)。中国の李克強前首相が心臓発作で死去、68歳(26日)。アルメニアとアゼルバイジャンが首脳級会談(27日)。2024年米大統領選、ペンス氏が撤退(28日)。ネタニヤフ氏、戦闘「第2段階」~イスラエル、地上部隊を追加(28日)、などです。

 68歳、若過ぎる死です。李克強氏が首相・常務委員を退任してわずか7カ月です。上海のホテルのプールで遊泳中に心臓発作を起こしたとのことでした。1026日でした。

 中国経済は今、不動産不況を筆頭に深刻な構造問題を抱えてあえいでいます。
 鄧小平氏の改革路線の継承者・李克強氏の死去は、中国経済の現状と「合わせ鏡」のようです。

 安徽省合肥市にある李氏の旧居前には28日、地元住民ら1万人以上が訪れ、献花しました。
 合肥市は李氏が少年時代を過ごした場所です。死去した中国指導者への自発的な追悼としては異例の規模となりました。
 習近平指導部は、政権批判に転じることを警戒して、SNS対策などさまざまな規制に入っています。

 李氏は20133月、首相に就任しました。
 就任後初の記者会見で「市場化に向けた改革の方向性を堅持する」と宣言。高度経済成長から安定型経済に発展させるため、自動車市場の開放など構造改革を推進してきました。しかしその路線に立ちはだかったのが習近平総書記でした。

 李氏は習氏より2歳年下です。事務能力が高く、共産党内で習氏よりも早くから頭角を現していました。
 37歳の若さで閣僚級の共産主義青年団(共青団)第一書記に就き、その4年後に開催された1997年の第15回党大会で中央委員に選出されています。
 習氏は同じ党大会で格が下の中央委員候補にしかなれませんでした。

 二人の立場が逆転したのが2007年の北戴河会議でした。
 次期党総書記選びで、当時現職総書記の胡錦涛氏が李氏を推し、前総書記の江沢民氏は習氏を推して対立したのです。結果として、習氏は総書記、李氏は首相となっています。

 李氏への期待は習氏をけん制し、各派閥による集団指導体制を継続させ、高度経済成長を維持することでした。

 政権発足後、二人の政策の方向性の違いは早くも露呈することとなり、習氏はさまざまな党の組織をつくり、李氏が率いる国務院(政府)から経済、金融、教育など各分野の主導権を奪ったのです。しかし李氏は抵抗するそぶりをほとんど見せませんでした。控えめな性格であったことを指摘する中国専門家は多いのです。

 国際通貨基金(IMF)が10月にまとめた最新の予測では中国の実質経済成長率は2023年の5.0%から24年には4.2%へ、さらに27年以降は3.0%台に落ち込むとされています。

 習指導部は分配を重視する「共同富裕(共に豊かになる)」を政治スローガンに掲げ、労働分配率の上昇、税や社会保障を通じた再分配の強化。そして中低所得層の収入底上げを狙っています。

 全て裏目に出るでしょう。
 民間企業や家計を圧迫せずに市場機能を重視した改革こそが不可欠になるのですが、推進する人は「誰も」いなくなりました。中国経済の行く先は暗雲に包まれています。



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