2023.10.13 22:00
愛の知恵袋 179
生活に歌と音楽を取り入れよう
松本 雄司(家庭問題トータルカウンセラー)
「心が枯れてしまった」とつぶやく男性
50代だというその男性は、大きなため息をついて、「最近はもう、毎日がしんどいだけなんで…」と言い、肩を落としていた。
「何か楽しみはないんですか?」と訊くと、「まあ、しいて言えば、食べることぐらいですね。あとは何もないですよ」と言う。
仕事に疲れ、人間関係に疲れて、心が枯れてしまったようだというのだ。
親しい友人も特にいないし、これといった趣味もないという。
「そんな状況に置かれたら、私でもあなたと全く同じ状態になると思いますよ。人はどんなに忙しい時や苦しい時でも、何でも話せる友人が一人でもいるか、あるいは、楽しみになる趣味の一つでもあれば、生きていけるものですよね」
「確かに、そうかもしれませんね。でも、すぐに友人をつくるのは難しいです」
そこで、私は、「では、まず何か趣味を持つことにしましょう」と提案した。
「何か好きな事はありませんか?」と訊くと、「若い時は音楽が好きだったんだけど…」と言う。そこで、それを掘り起こしてみる方法を教えた。
彼はその後、ネットで音楽を探していく中で、何かを見つけたようだった。
私達の人生に寄り添ってくれる歌と音楽
人間の心に最も速く深く届くのが音楽だ。歌も音楽もない人生はどれほど味気ないものだろうか。私達が自分の人生を振り返ってみると、無意識のうちに歌や音楽に支えられていたということにきっと気づくはずだ。
私の場合、歌はうまくない。でも好きであった。また、その時々に応じて、様々な音楽に支えられながら生きてきたような気がする。
私が中学生の頃を思い出してみると、確かに周りには歌や音楽があったようだ。
父は趣味として華道と謡曲を続けていた。謡曲は人間国宝の観世流能楽師・井本完二先生の門下生になり、師が逝去するまでの13年間、能楽教室に通っていた。
母は若い頃から書道と華道をたしなんでいて、晩年は短歌と水墨画に熱心であったが、ちょうどこの頃は詩吟の教室に通っていた。
姉は幼い頃から日本舞踊と琴を学んでいて、いつも家で琴の練習をしていた。結婚後「ママさんコーラスの会に入ったよ」と聞いて驚いた。78歳になった昨年も、コンサートホールでの女性コーラスや琴の演奏会に出演しているので脱帽である。
私は歌や音楽に関しては一芸に秀でるということはできず、広く浅くだった。
小学5年から入ったボーイスカウトで鼓隊のドラムをたたいた。ここでリズム感に目覚めたのか、中学になると吹奏楽部に入って金管楽器を吹いた。演奏中に全員がぴったりと息が合った時の感動は何とも言えないものだった。
高校時代は下宿生活をした。当時は受験戦争の時代で部活をする余裕もなかったが、同じ家に下宿していた芸術短大生が音楽好きで、タンゴ曲やポピュラーミュージックのレコードをよく聴いた。ザ・プラターズの「オンリーユー」、ナット・キング・コールの「枯葉」、フランク・シナトラの「マイウェイ」などが好きだった。
大学時代は入ったサークルが歌をよく歌うところだったので、親睦会のたびに様々な歌を歌うようになった。卒業後はフォークソング全盛時代で、仕事の合間に、さだまさし、谷村新司、南こうせつ、松山千春、加山雄三などの歌をよく聴いた。
また、疲れた時には聖歌や賛美歌に心洗われ、ゴスペルソングが勇気をくれた。
最近の歌では平原綾香の「ジュピター」が良かった。アニメソングにも優れたものがあり、天空の城ラピュタの「君をのせて」などは何度聴いても心が癒される。
全く違うジャンルだが、詩吟や民謡も好きだ。詩吟は杜甫の「春望」や頼山陽の「川中島」を友人から教わった。民謡は民謡教室の先生から少し教えてもらった。私の十八番は「ソーラン節」。東北は民謡の宝庫だが、宮崎の「稗つき節」も好きだ。
歌や音楽には心を復活させる力がある
こうしてみると、私は何でも屋みたいだ。でも、私はそれでよいと思っている。人生は波乱万丈。千変万化の時と場に応じて、心に響くものが違うからである。
ところで、上手、下手を気にするあまり、歌や音楽を楽しめていない人を時々見かける。それはもったいないというものだ。
カラオケは日本発祥のヒット作品だが、上手い下手を気にすると楽しめない。カラオケこそ正に自己陶酔の極致だが、それでよい。自分が楽しむことが大切だ。
この地上での人生には、何をしても喜・怒・哀・楽が付きまとう。自分自身が歌や音楽の世界に没入して、心の呪縛を解き放つことができれば最高である。
私も仕事で良い成果が出たときは、帰り道は車を運転しながら朗々と歌って歓喜を味わう。また、苦しい時や疲れた時には就寝前にネットで音楽を聴く。じっと聴き入ると、涙が流れ、心が癒され、再び力が湧いてくる。
実に有難いことに、今ではありとあらゆる歌と音楽をネットで聴くことができる。
是非、皆様も「心が疲れたな…」と感じた時は、歌と音楽に触れてみて下さい。