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心をのばす子育て 5

 アプリで読む光言社書籍シリーズとして「心をのばす子育て」を毎週土曜日配信(予定)でお届けします。
 子育ての本質を理解し、個性に合わせた教育で幸せな家庭を築くための教材としてぜひお読みください。

長瀬雅・著

(光言社・刊『心をのばす子育て7つのポイント』〈2002210日第2版発行〉より)

1、子育ての原理と個性

■不登校と心理カウンセリングの問題点

 親にとって大きな不安の一つに不登校があります。今、不登校児は全国で約13万人(平成13年)もいます。この数字は、中学校では平均一クラス一人の割合です。高校で中途退学している生徒が、毎年11万人います。不登校になると平均で3年間くらい続きます。中には小学校から不登校で、そのまま中学校卒業まで不登校という例も増えてきています。ただ、学生時代に表面化する不登校は、次に高校入試とか大学入試といった節目があるので、そこから流れに乗れる可能性があります。また、学校も子供を受け入れるために協力してくれます。これが社会人になってから表面化すると復帰のきっかけがありません。実際に小学4年生で不登校から引きこもりになり、その後30年たっているという青年もいます。30歳、40歳を過ぎて就職もしていなければ結婚もできません。かといって、そこまでいって社会に戻ろうとしても、社会はなかなか受け入れてくれません。ですから、もし問題が出るなら早く出たほうが良いともいえます。

 こんなに不登校が増えてしまった原因は、子供が訓練されずひ弱になったこともありますが、もう一つに最近の「心理カウンセリング」があります。よく不登校やいじめの問題でテレビなどのマスコミによく出てくる心理カウンセリングです。そして、そこで行われるのは「精神療法」です。最近の精神療法はラジオなどの子供相談、悩み相談などの番組を聞いているとよく分かりますが、カウンセリングの方法が画一化してきています。子供が問題をもった時に力強く導くというよりも、子供の判断に任せて様子を見るという傾向にあります。

 例えば、不登校の子供に対しては「今は苦しんでいるのでそっと見守りましょう。エネルギーがたまったら、また学校に行くようになります。あまり登校刺激を与えないで、好きなようにさせてください。子供の良いところも、悪いところもすべてありのままに受け入れてください」と言います。そして、子供には「学校に行かなくていいよ。無理をしなくていいよ。頑張らなくていいのよ」と言う傾向があります。

 不登校の子供は心が傷ついてフラフラになって、ある意味で風邪を引いているようなものです。風邪を引いて熱が39度もあって、本当にフラフラになっている子供には無理して学校に行けとは言いません。ですから、心が疲れている子供には「学校に行かなくてもいいんだよ。無理しなくていいんだよ」と言うのは有効です。学校に行けないことで本人自身が心の中で闘って傷ついているからです。ところが、体の風邪と違って、心の傷は見えないので、無理して行かせてこじれる場合があります。よく観察をしなければいけません。

 しかし、問題はその後の指導方針がなく、待っているだけという点です。考えてみてください。12カ月も休んでいたら「もう一度学校に行きたい」と思っても行けなくなってしまいます。「今から学校に行ったら友達にどう見られるだろうか? 授業はどこまで進んでいるのか? 授業について行けるだろうか? 席は今でもあるだろうか?」などという不安が子供の頭の中を渦巻いて行けないのです。学校に行かなかったことが原因で、行けなくなるのです。傷ついたときに癒(いや)しの精神療法は必要ですが、学校にまた行こうと思った時には、別のカリキュラムで押し出さないと子供は学校に行きません。

 最近、不登校が増えてきた原因の一つは明らかに精神療法にあります。「無理しなくていい。エネルギーがたまったらいつか行けるはずだ」と言って、待つだけのカリキュラムが不登校を長引かせているのです。1年、2年と親はひたすら待っています。ところがエネルギーがたまっても、行きたいと思っても、もう行けません。誰かがぐっと押してあげなければ行けません。学校に行くためのプログラムが必要です。

 もう一つ、「精神療法は健康な子には害になる」ということを知らなければなりません。精神療法はある意味では風邪の時に食べるお粥(かゆ)のようなものです。お粥は病気の時には有効ですが、健康な時には栄養不足で逆に病気になってしまいます。「学校など行かなくてもいい」「嫌なことはしなくていい」「頑張らなくていい」といった言葉は、心が疲れている子には有効ですが、特別問題のない元気な子には有害になります。健康な子でも学校に行きたくないことはよくあります。そのときに「行きたくなければ、行かなくていいんだよ」と言っていると、本当に行かなくなります。「嫌なことはやらなくていいんだよ」と言っていると、嫌なことがあるとすぐ逃げてしまう子になってしまいます。ですから「嫌なことがあっても、つらいことがあっても、頑張れば、そのうちいいことがあるからね」と言って育てます。

 勉強は嫌いでも「学校に行きなさい。人生好きなことばかりができるわけではないのよ。我慢しなさい」と言うべきなのです。何でも子供の言うことを受け入れて、何かが欲しいと言えば買って上げていたら「溺愛(できあい)」になってしまいます。確実に、その子は甘やかされた子供になってしまいます。精神療法はあくまで心が疲れた子供用なのです。そうでない子供にはしっかりとした教育法が必要です。

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 次回は、「子育てのスタートとゴール」をお届けします。