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心をのばす子育て 3

 アプリで読む光言社書籍シリーズとして「心をのばす子育て」を毎週土曜日配信(予定)でお届けします。
 子育ての本質を理解し、個性に合わせた教育で幸せな家庭を築くための教材としてぜひお読みください。

長瀬雅・著

(光言社・刊『心をのばす子育て7つのポイント』〈2002210日第2版発行〉より)

プロローグ

■父親像の変化

 子供の精神力が弱くなったもう一つの理由に「父親像」があります。平成10年に、中央教育審議会が出した報告書の中にも父親の問題が指摘されています。子供は夫婦で生み、夫婦で育てるものです。ですから父親が子育てに関与しなければなりません。特に中学に入っていじめ、不登校などの問題が起こった時でも、父親がこの問題に取り組むかどうかで解決の成果は大きく違います。小学生までなら母親だけでも何とかなるのですが、中学生ともなると体格も大きくなって母親だけでは手に負えなくなります。ところが、子供に問題が起きて「こんな問題が起こったから、ちょっと話をして」と父親に言っても、「子育てはおまえに任せている。おれは仕事をしているんだから、そんなことまでもってくるな」と言って取り合わない父親がいます。

 なぜそんなことを言うのでしょうか。父親の立場から言うと、その理由は、子供の小さいころから子育てにかかわっていないからです。小さいころから触れ合わないまま子供が大きくなり、急に「子供に問題が起こったので話をして」と言われても、何を話していいか分からないのです。ところがプライドがあるので、「子育てはおまえに任せている」と言うのです。

 このような反省からか、最近少しずつ子育てに参加する父親が増えてきました。ただ、子供との触れ合い方が昔と少し違います。昔は、「地震、雷、火事、親父」といって、父親は厳しく恐いというイメージでしたが、最近の父親はやさしいのです。なぜ父親がやさしくなったかというと、普段仕事で忙しくて子供との触れ合いが少ないからです。ですから日曜日に公園に行ってキャッチボールをして遊んだり、出張に行くと土産を買ってきたりします。普段は家にいなくて、たまの日曜日は遊んでくれ、ときどき土産を買ってきてくれる父親、子供にとっては都合の良い存在です。でも母親はそうはいきません。時には厳しく、口うるさいくらい言わなければなりません。それでお母さんのほうが子供にとって厳しくなるのです。

 しかし、本質的に父親のほうが厳しく、母親のほうがやさしいのが自然です。自然だというのは、子供に受け入れやすいということです。もちろん状況によっては逆になることが当然あります。「基本的な関係」が、父親は厳しく、母親はやさしいということです。

 ここで最も悪いのは両方ともやさしかったり、両方とも厳しかったりするケースです。なぜなら、厳しさとやさしさは両方必要だからです。厳しさのないやさしさは甘やかしにつながり、やさしさのない厳しさは暴力につながります。家庭の中では、父親はやはり強さの象徴です。この強さは家族を支配したり暴力を振るったりする強さではなく、家族を守り頼りになるという精神的な意味での強さです。父親は家庭の精神的中心であるべきです。父親は男の子にとっては将来の目標となる存在であり、女の子にとっては将来の男性像へとつながっていきます。

■価値観の崩壊

 このような環境の変化の中で、さらなる問題は既存の価値観が崩壊したことです。現代は「価値観の多様化の時代」と言いますが、実は「価値観の崩壊の時代」なのです。学校も家庭も子供を指導できなくなっています。子供を何とかしたいと親も先生も思っているのですが、価値観が崩壊して何を教えたら良いのか、何が正しいのかが分からないのです。勉強の内容は教えられても、心を伸ばす教育ができません。心を伸ばす「思想」がないからです。

 昔はほうっておいても子供が順調に育ちやすい環境がありましたが、現代はほうっておいたら子供はどうなるか分からない環境にいます。本気で子育てをすることを考えないと、気がついたときには、子供がとんでもないところに行ってしまう可能性があります。そのためにも現代は、子供をしっかりと教育する「新しい子育ての理念」が必要なのです。

 私は大学を卒業して高校で教鞭(きょうべん)をとり、教育にたずさわりながらさまざま体験をしました。そういう中で教育の原点は家庭にあるということを目の当たりにするようになったのです。現在、私自身も妻と二人の子供と生活しながら、また、EQ教育研究所を主宰しながら多くのことを学びました。

 また、大きな触発を得た、フロイトとならぶオーストリアの精神科医で「アドラー心理学」を確立したアルフレッド・アドラー(A. Adler)博士の研究からも、多くのことを学ぶことができました。

 本書は、私の経験と研究によって裏づけられた子育ての基本原理というようなものを私なりに七つのポイントにまとめたものです。

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 次回は、「『原理』と『個性』の二面性」をお届けします。