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心をのばす子育て 2

 アプリで読む光言社書籍シリーズとして「心をのばす子育て」を毎週土曜日配信(予定)でお届けします。
 子育ての本質を理解し、個性に合わせた教育で幸せな家庭を築くための教材としてぜひお読みください。

長瀬雅・著

(光言社・刊『心をのばす子育て7つのポイント』〈2002210日第2版発行〉より)

プロローグ

■物質が豊かで便利な時代

 近年、家庭を取り巻く環境で変化したのは、物が豊かになったことです。昔は現在と比べると貧しい生活でした。しかしその分、隣近所で助け合う習慣がありました。田舎から季節の産物が届けられたり、何か家で作ったりした時、よく「おすそ分け」といって近所に配ったものでした。また、「隣組」というような組織があって、近所との連帯感がありました。ですから子供が学校や家の外にいても近所の人の目があって、それが子供の非行を防いでいました。昔はこのような助け合う環境があったので、人間関係をつくることにあまり苦労しませんでした。しかし、今は物が豊かになり何でも店にそろっていて、一人でも生きていけるようになりました。そのことは素晴らしいことですが、その代わり努力しないと人間関係がつくれなくなってしまいました。孤立しやすい環境になっているのです。

 また、昔の母親は一日中「家事」に追われていました。それも子供を背負って家事をしたものです。親にとってはこのような大変な生活の中で、心が安まるのは子供と一緒にいる時くらいなものでした。子供の笑顔や、寝顔を見ている時に心が安らぐのです。子供との時間が唯一の憩いなのです。そうして子供との時間を少し過ごして、また家事をするという生活だったのです。

 ところが、今は生活が便利になり、何でも思いどおりに生活できます。そのような便利な生活の中で、唯一思うとおりに動かないのが子供です。生活が快適になるに従い、子供が安らぎからストレスになってきました。そのストレスから幼児虐待に至るケースもあります。

■平均寿命と子供の数の変化

 昔の日本は、寿命が45歳から50歳、子供の数は平均5人から6人、これが一般の家庭の姿でした。しかし、現代の平均寿命は80歳を越え、子供の数は1.4人(出生率)になりました(執筆当時)。

 昔は最後の子供を30歳ぐらいで生んだとすると、その子が一人前になるまでに寿命がつきてしまう可能性がありました。ですから親としても自分が死ぬまでにこの子を一人前に育てなければいけない、いずれは一人で生きていかなければならないと思うので、子供を鍛えたものでした。

 ところが現代は子供の数が減って寿命が延びたので、長い期間親が子供の面倒を見ていられるようになりました。その結果として親離れ子離れが難しくなってきたのです。90歳の母親が70歳の子供の世話を焼いているということが現実に起きています。親はいつまでも子供を守ろうと思い、子供はいつまでも親に頼ろうとしています。その結果、精神的に自立できず、ひ弱な若者が増えてきています。

 また、子供の数が多いと育てるのも大変です。子供が3人、4人となると、さすがに親の手が足りなくなってきます。そうすると、たいがい長女が下の子の面倒を見たものです。昔の長女は結婚前に家事や子育てをすべてやっていました。ですから主婦になっても初めからベテランだったのです。

 ところが最近は家事が楽になったので、子供はほとんど家の手伝いをしないで育ち、結婚します。そうすると、家事も子育てもすべて初体験です。自分の子供を育てるのが初めての子育てなので、最初の子供には神経を遣います。ですから現代は、長男・長女に神経質で繊細な子供が多くなってきました。二番目、三番目になるとだんだんたくましくなります。

 もちろん子供にも個性がありますから一概にそうとは言い切れませんが、これは「親の心のゆとり」に原因があります。最初の子で子育ての経験があるので、次の子の時には少々のことがあっても親は動揺しないのです。親がどっしりと構えることができるようになると、それが子供の心にも影響するのです。また、昔は大家族でしたから初めての子供でも、おばあちゃんなどにいろいろ相談できたのですが、核家族ではなかなかそうもいきません。核家族だと、子供が小さいころは夫婦で食事にも行けません。ですから子育てによる負担が大きくなってきました。祖父母がいれば子供を任せて、夫婦で出掛けることもできます。核家族になってきたことが、子育てにストレスがたまるようになったもう一つの原因なのです。

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 次回は、「父親像の変化/価値観の崩壊」をお届けします。