2023.08.19 12:00
神様はいつも見ている 18
~小説・K氏の心霊体験記~
徳永 誠
小説・K氏の心霊体験記「神様はいつも見ている」を毎週土曜日配信(予定)でお届けします。
世界平和統一家庭連合の教会員、K氏の心霊体験を小説化したものです。一部事実に基づいていますが、フィクションとしてお楽しみください。同小説は、主人公K氏の一人称で描かれています。
第2部 姉が統一教会へ
5. 3年間、泣き暮らした母
怒り心頭に発した私は、床に叩きつけた『原理講論』をにらみつけながら、姉を問いたださねばならないと思った。
姉はその時まだ実家にいたので、私はすぐさま収まらない怒りをそのまま姉にぶつけた。
「神棚に何をしたんや!」
姉は私の顔をまじまじと見ながら、ばれたと思ったのか、薄笑いを浮かべているようにも見えた。
「あれはテツオのためにと思って…」
「言い訳すんな!」
到底許すことができなかった。
気が付いた時には、そこに兄の子(おい)が一緒にいることも忘れて、いきおい私は姉を殴っていた。
後に私は統一教会(現・家庭連合)に入会することになるのだが、おいはこの日のことをよく覚えていて、「あの時、おばちゃんのこと殴ったよね。思い切り殴ったよね」と事あるごとに口にするようになる。
姉の行動は人間の道理を外れているという思いが私にはあった。
私の家は普通の家ではなかった。
ダンプカーと衝突事故を起こして死にかけていた父が、神様によって救われたという家である。
その上、神様のおかげで商売も繁盛していた。神様がお客さんを連れてくるというお助けによって、家も教会も繁栄していたのだ。
その恩を忘れて、他の宗教に行くなどということは考えられなかった。忘恩の徒と言うしかなかった。人間以下の畜生のような所業だと思った。
姉の問題で一番苦しんだのは母だった。
その頃、母が教会を始めてから、すでに20年近くの歳月が過ぎていた。
母の無償のお勤めによって、多くの人々がその恩恵を受けていた。
「あそこに行けば病気を治してくれるし、いろいろな問題を解決してくれる」という評判が定着していた。
それなのに、「一番の信者であるべき家族の娘が、教会を捨てて統一教会へ行ったのはおかしい」と騒ぐ者が少なくなかったのである。
「親子関係が悪いのではないか」
「本当は神様が憑(つ)いていないのではないか」
信者は言いたい放題で母を批判した。あることないこと、うわさを流した。
それがどれほど母の胸を痛め傷つけたか分からない。
それは信者だけにとどまらなかった。
母は神懸かりになって以来、神道の儀式や作法を学ぶために、神道の教会に通って修行を重ね、教えを受けていた。その同僚や先生に当たる指導者からも、娘が他の宗教に行ったことを批判され、陰口をたたかれた。
「人を救う前に、ご自分の子供を救いなさいよ」
「神様に本気で仕えているの?」
「もっと真剣に神様のお勤めに励みなさい」
それでも、母は家の商売を手伝い、悪口を言うその人たちのために、毎晩8時から夜中の1時過ぎまで、無報酬で加持祈祷を続けた。
この心ないうわさや陰口、批判が、母には一番こたえたようだった。
母は心の中に、「こんなにも神様に恩返しをしているのに、こんなにも人のために尽くしているのに、どうして娘が他の宗教に行かなければならないのか」という思いを抱えていた。
「私の修行が足りないのだろうか?」
「それとも、私の子育てが間違っていたのだろうか?」
どんなに悩んだことか。
「お父さんがけがをして死にかけた時も、毎日の修行も、お勤めもつらいとは思ったことはなかったけれど、娘のことではつらくてつらくて、本当に泣けて泣けて仕方がなかったわ」
母は誰にも相談できず、後に私だけに「あの子が出ていってから3年間、泣き暮らした」と語った。
そんな母の姿を知っていたので、私は姉と一生縁を切ることを決意していた。
姉の信仰がどうのこうのというよりも、姉の義理人情に欠ける振る舞いが許せなかった。
殴ったことは悪かったけれども、母のことを思えば、そうせざるを得ない私だったのだ。
(続く)
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次回は、「妻との結婚、神様に判断を仰ぐ」をお届けします。