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神様はいつも見ている 17
~小説・K氏の心霊体験記~

徳永 誠

 小説・K氏の心霊体験記「神様はいつも見ている」を毎週土曜日配信(予定)でお届けします。
 世界平和統一家庭連合の教会員、K氏の心霊体験を小説化したものです。一部事実に基づいていますが、フィクションとしてお楽しみください。同小説は、主人公K氏の一人称で描かれています。

第2部 姉が統一教会へ
4. 神棚の中の『原理講論』

 姉が統一教会(現・家庭連合)に行ってしまってから3年ほどたった頃だ。姉が家に帰ってきたことがある。

 久しぶりだったので、私はまじまじと姉の顔を見た。姉の姿を見て驚いた。

 家にいた頃は、女性らしく、化粧や身だしなみに気を使う普通の女性で、普段から身ぎれいにしていた。
 ところが、3年ぶりに会った姉は激変していた。全くのノーメイクだったのだ。

 姉のすっぴんの顔は何度も見たことはあったが、この時ほど、「変われば変わるもんやな」と驚いたことはない。

 服装もみすぼらしいもので、まるで“貧乏”が歩いているような雰囲気だった。どんな生活をしているか分からないが、幸せな人生を過ごしているようにはとても見えなかった。

 衝撃を受けた私は、思わず財布から五千円札を取り出して、顔を背けながら渡した。

 「ほら、これ…」

 これでおいしい物でも食べたらいい、と言おうと思ったが、それ以上は声にならなかった。

 姉は滞在している間、毎日、夜中に祭壇の前で祈っていた。
 そのことに気付いたのは、ある夜、床に就いても眠られずにいた時に姉の声が聞こえてきたからだった。

 姉の祈りの中に“共産主義”という政治的な言葉が何度か混じっていた。「宗教なのに、変な祈りをするなあ」と思った。

 姉は祈りの最後に家族の名前を挙げて祈っていたが、私は感動しなかった。むしろ私たちへの当て付けのように感じられて、腹が立った。

 けれども、姉の様子を見ながら、決して悪いことをしているのではないことは直感した。しかし姉を許す気持ちにはなれなかった。

 姉に対する私の思いは割り切れなかった。やはりどう考えても、母の跡を継ぐのは姉しかいないという気持ちが私の心の中から消えることはなく、どうにか姉の気持ちを変えたいという思いに変わりはなかったからだ。

 私は大学に進学し、名古屋で暮らすようになった。建築関係の学部を選んだのは、家業の土木建設業を助ける意味もあったが、名古屋の大学に決めたのは自分の故郷から少し離れてみたいという気持ちもあったからだ。

 もちろん、そのことは神様にも相談済みで、了承を得てのことだった。

 下宿生活をしていたが、部屋には神棚を置いて、私の守り神である金剛龍王大神(こんごうりゅうおうおおがみ)を祀(まつ)っていた。

 毎日、朝昼晩、お水やお酒を供え、金剛龍王大神の好物である卵も欠かさず供えた。しかし私は神と共に生きていることを誰にも打ち明けなかった。

 だから大学の友達が下宿に遊びに来たときには、神棚をカーテンで隠した。
 学生生活を謳歌(おうか)しながらも、ここまで自分を導いてくれた神様を姉のように裏切ってはならないと、いつも思っていた。卒業後は家業を助けられるような仕事に就き、少しでも母のサポートができたらと考えていた。

 夏休みに実家に帰った時のことだった。
 いつものように自分用の神棚にお水を上げようとした時だ。なぜか分からないが、瞬間的に違和感を覚えた。

 何かが違う。神棚がどこか少し変わっているような気がした。

 「なんだろう?」

 「変やな?」

 よく分からないが、私が留守の間に誰かが神棚をいじったような気配があった。
 私はそのままにしておけないと思い、普段はほとんど触れることのない神様の御神体を納めた部屋の扉を開けた。

 するとそこに黒い表紙の一冊の本があった。表紙には「原理講論」と書いてある。姉が通っている統一教会の教義書だった。

 ピンと来た。姉が私に無断で入れたに違いない。

 「何という罰当たりなことをするんや!」

 私の体はわなわなと震えた。

 本を手に取ってページをめくると、統一教会の文鮮明(ムン・ソンミョン)教祖の肖像写真があった。
 私はかっとなり、思わず『原理講論』を床に投げつけた。

 「絶対許さない!」

(続く)

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 次回は、「3年間泣き暮らした母」をお届けします。