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神様はいつも見ている 8
~小説・K氏の心霊体験記~

徳永 誠

 小説・K氏の心霊体験記「神様はいつも見ている」を毎週土曜日配信(予定)でお届けします。
 世界平和統一家庭連合の教会員、K氏の心霊体験を小説化したものです。一部事実に基づいていますが、フィクションとしてお楽しみください。同小説は、主人公K氏の一人称で描かれています。

第1部 霊界が見えるまで
8. 医者か、神か

 母はもちろん、医療の知識などほとんど持っていないごく普通の主婦だった。

 「医者が腕を切らなければ死んでしまうかもしれないと言うなら、そうなのかもしれない」

 母親は迷っていたようだったが、最後は医者の言うことに同意しようと考えていた。

 「たとえ左腕が手術で無くなっても、生きていられるだけで幸せではないか。死んでしまう瀬戸際まで行った夫がこうしてよみがえったのだから…」

 同時に母は、「神仏に頼れば、もっと奇跡的なことが起こるかもしれない」とも考えていた。

 母は神仏にすがるしかないと、意識不明のまま死線をさまよう夫を目の当たりにしながら、毎日水行を行い、神棚に祈りをささげていた。
 そればかりでなく、つてを頼って叔母の家の近くの神道の教会にも熱心に通い詰めるようになっていた。

 母親が神仏を熱心に信仰するということは今まで一度もなかった。
 その母がまるで別人のように、神道の教会に通うようになったのである。

 子供たちも親戚も驚いていた。
 しかし母の熱心さに影響され、父が助かり、もとのように元気な姿になることを私も子供心に祈った。

 「苦しい時の神頼み」。最初はそうであったが、母は徐々に真剣になり、その姿は子供から見ても尋常ではなくなっていった。母は毎朝、7時から教会で修行を行っていたのである。

 母の神仏への信仰は、父の意識が回復するようになってからも全く変わらなかった。

 母は、医者が死ぬと言ったにもかかわらず、意識を取り戻し、命が回復した父を見て、神の加護のおかげだと、ますます信仰の世界へのめり込んだ。

 そのような時に医者が腕を切ると言ったのだった。

 突然、母は別人のような声を出した。

 「治るで。腕切らんでも治る」

 その時、母に再び神が憑依(ひょうい)したのだ。
 父の体を調べると言った時と同じように、神懸かりになったのだ。

 周囲は水を打ったように静まり返った。

 医者は、最初は驚いたように口をあんぐりと開けていたが、やがて顔が真っ赤になった。
 自分たちが真剣に行った病状の診断を、素人にすぎない母に馬鹿(ばか)にされたと思って怒りだしたのだ。

 「あんたは科学を馬鹿にしとるんか? なんでそんな根拠のないことを言うんだ! 言ったことに責任は取れるのか!」

 何か霊のようなものが取り憑(つ)いて、母の口を通して語っているなどと医者は信じていない。

 私自身もまだ信じられなかった。叔父が言っていたように、母親がおかしくなってしまったのではないかと思っていた。私が神霊の存在を信じるようになったのは、だいぶ後になってからだ。

 この時は、「お母さんは何を言っているのだろう。お医者さんがああ言っているのに…」などと思っていた。

 「わしが保証するで。腕を切らないでも、治るぞ」

 「素人のお前が何を言うか!」

 「でも、わしが言ったとおり、この男は死ななかったぞ!」

 「……!」

 母が譲らないので、医者は怒ったまま部屋を出ていった。

 霊が取り憑いた母は言い放った。

 「医者は詰め所まで行ったが、すぐに戻ってくるで」

 え、すぐに戻ってくる? そんなことがあるものか。あんなに怒っていたのに…。

 ところが、母の霊が言うとおり、医者はすぐに戻ってきた。
 医者の手には一枚の紙があった。
 腕を切ることをまた説得しようというのか。

 医者が持ってきた紙は、「腕を切らなかったことが原因で、もしものことがあったとしても、医者を訴えない」ということに同意することを確認するための書類だった。

 現代は、医療事故による訴訟が少なくないが、当時も誤診や手術ミスで裁判沙汰はあったのだろう。

 そのようなトラブルに見舞われないように、病院ではあらかじめ、そのような書類を用意していたのである。

 母はその書類に署名し、はんこを押した。

(続く)

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 次回は、「母を通じて神様と出会う」をお届けします。