2018.07.24 12:00
世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~
中国の覇権阻止に動くトランプ
渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)
7月16日から22日までの主な出来事は以下のとおりです。
米ロ首脳会談、フィンランド・ヘルシンキで開催(7月16日)。日本とEU首脳がEPA(経済連携協定)に署名(17日)。参議院議員定数6増の改正公職選挙法が成立(18日)。IR(統合型リゾート)実施法が成立(19日)。トランプ大統領、北朝鮮人権法の2022年まで延長法案に署名(20日)。G20財務相・中央銀行総裁会議が開会(21日)。
今回は、日本とEU(欧州連合)とのEPA(経済連携協定)署名やG20(主要20カ国・地域)財務相・中央銀行総裁会議における課題を扱います。その課題とは、「保護主義」への対応です。米中貿易戦争は、世界経済、特に日本経済への影響を考えれば、すでに深刻なレベルに入っています。
米国の金融大手モルガン・スタンレーは、トランプ米政権が発動方針を示している合計2500億ドル相当の中国製品に対する追加関税が完全実施された場合、中国のGDP(国内総生産)成長を直接・間接的に計0.6ポイント押し下げるとの予測を出しました。また、米中の報復合戦がもたらす結果について、第一生命経済研究所の長浜俊博主席エコノミストは、日本のGDPは1.4%押し下げられるという試算を公表しました。(産経新聞、7月17日付)
米中貿易制裁合戦は、トランプ政権による「恫喝的」な制裁措置に端を発しています。米国政治の仕組みは、議会や裁判所に強い権限を与えています。しかし「国家安全保障」の理由であれば、大統領の政策はあまり制約を受けないようになっているのです。今回の措置はそれでした。
中国経済は、国有企業最優先の異質な経済秩序が中核となっています。さらに、昨年10月の共産党大会や今年3月の全国人民代表大会で、ハイテク覇権を目指す「中国製造2025」構想が採択されたのです。
この構想に米国は強い懸念を持ちました。国際競争力を備えた製造業の育成が総合国力を引き上げ、国家安全を保障するとして、IT(情報技術)やロボット、航空宇宙機器などを重点分野としています。そしてこの多くは軍事転用が可能で、技術力の「軍民融合」の促進も明記されています。
加えて中国の不公正な貿易慣行や産業政策も放置できません。外国企業に技術移転を強要したり、サイバー攻撃で技術を窃取したりするのです。そこに中国が真摯(しんし)に向き合わない限り、米国との根源的な対立は解消できません。この現実を直視するよう、わが国や国際社会も中国を戒めるべきなのです。
中国は制裁関税以外の「保護政策」、例えば国有企業への莫大な補助金や元安為替操作などの疑いもあります。米国の恫喝的手法も問題ですが、中国の不公正貿易慣行はより大きな問題といえるでしょう。