平和の大道 27
大断層などの問題点も

 皆さんは、『平和の大道』という書籍をご存じでしょうか。著者は、一般財団法人国際ハイウェイ財団の理事長、佐藤博文氏です。
 同書は、国際ハイウェイ財団が推進する「国際ハイウェイ・日韓トンネル」プロジェクトの意義や背景などについて総合的に理解することのできる貴重な一冊です。
 Blessed Lifeではその一部を抜粋して紹介してまいります。ぜひお楽しみに!

佐藤 博文・著

(『平和の大道-国際ハイウェイ・日韓トンネル-』より)

四つの調査研究会

 日韓トンネル研究会のもとには当初、四つの調査研究部会が設けられた。

 第一部会(政策・理念)は、「国際ハイウェイプロジェクト構想における日韓トンネル建設の位置付けと理念の構築、さらに、関連地域開発と社会的・経済的インパクト等と問題点の提起」を目的としていた。部会長は金山政英・元駐韓大使で、鳥羽欽一郎・早稲田大学教授、中川学・一橋大学教授、清水馨八郎・千葉大学名誉教授らが参加した。

 第二部会(地形・地質)は、「トンネルの予定ルート沿いの地質条件の概略の把握と問題点の提起」を目的にしていた。部会長は、日韓トンネル研究会会長の佐々保雄・北海道大学名誉教授が兼任し、高橋彦治・元鉄道技術研究所室長らが委員となった。

 第三部会(設計・施工)は、「トンネルの各種建設工法の比較と設計概念の提起」を目的にしていた。部会長は北原正一・元日本鉄道建設公団青函トンネル調査事務所所長である。北原氏をはじめ、いずれも青函トンネルで活躍したメンバーであった。

 第四部会(気象・海象)は、「トンネルが通る海域における気象や海象条件の概略の把握と、トンネル工事とその開通が及ぼす環境への影響を予測し、その対象を提起すること」を目的にしていた。部会長は佐々木忠義・元東京水産大学学長で、佐々木氏が亡くなった後は辻田時美・北海道大学名誉教授、坂上勉・九州大学名誉教授らがあとを継いだ。トンネル技術の関係者はほとんどが佐々保雄氏の紹介で、環境関係は佐々木忠義氏の紹介が多かった。

 態勢を整えた日韓トンネル研究会が、全国の専門家に研究会の発起人就任の依頼状を出すと、1000人以上の発起人が集まり、華々しく発足することになった。持田豊氏は最初から理事として参加した。当時、持田氏は鉄建公団の海峡線部長の現職だったので、持田氏の参加に関しては当時の仁杉厳・国鉄総裁も関知している。持田氏は、鉄建公団を退職して民間のコンサルタント会社の副社長になってからも、変わらずに第三部会の主要メンバーとして活躍した。

ルート選定

 これまでの調査に基づき、日韓トンネル研究会の第二部会(二代目部会長・高橋彦治・元鉄道技術研究所室長)は、「ルート選定」に関しての結論を次のように報告している。
 ルート選定の前提として、「路線規格」が決まっていなければならない。トンネル内を走る走体としては、自動車、電車、リニアモーターカー等が考えられるが、それぞれの場合によって路線規格が違ってくる。

 自動車で超長大トンネルを走行するには、ドライバーの人間工学的な限界が心配される。またリニアモーターカーは試験段階に入ったばかりで、実用化までにはまだまだ時間がかかるものと思われる。

 そこで、今の段階では最も現実的な「新幹線走行トンネル」を想定して、その路線規格を用いることにした。具体的には、最大勾配が1000分の201000m20mの落差)、最小曲線半径が5000mである。これは道路トンネルに置き換えても、十分に適応できる。

 日韓トンネルのルート選定上で最大の問題となっているのは、対馬海峡西水道における深い落ち込みを伴った大断層と、そこに積もっている未固結の新期堆積層の存在である。この地層に対応するために、ルートは大きく次の二つのケースが考えられる。

 第一のケースは、未固結の堆積層の下にある「岩盤の中」を通すものである。この場合、工事は比較的安全と考えられるが、かなりの大深度を通ることになるので、トンネルの総延長がそれだけ長くなる。工事としては、青函トンネルで経験済みの岩盤止水注入を併用した山岳トンネル工法で掘ることができる。

 第二のケースは、先回[26]で紹介したように、「軟弱な未固結層の中」を通すもので、シールド工法を用いることになる。この場合、トンネルの深度は浅くなるので、それだけ総延長は短くなる。しかし水深150mを超える大水庄下でのシールド工事は前例がなく、解決を要する技術的課題も数多くある。

 いずれにしても、九州から壱岐までの間は、岩盤を掘る山岳トンネル工法で掘削可能と思われる。問題は、対馬海峡の東水道と西水道に存在する新期堆積層をどうするかであり、その性状によって掘削方法が二種類に分かれるのである。

 日本から韓国に至る日韓トンネル3ルート案以上のような地質状況を踏まえて、現在A、B、Cの三つのトンネルルートが提案されている。Aルート(下対馬から巨済島)とBルート(上対馬から巨済島)は、九州から韓国の巨済島に至るルートである。そしてCルートは、直接釜山に上陸するルートであるが、想定ルートには水深230mを伴う大断層があり、また対馬を縦断するため総延長が非常に長くなるという難点がある。したがって、ここでは巨済島に上陸するルートに限定して地質概況を説明する。

 まず、九州地区は、唐津炭田の第三紀層があり、その表層部を玄武岩の溶岩が覆っていて、さらに、貫入岩が見られる。壱岐水道は、磁気探査の結果、火成岩の貫入が多いことが分かった。

 壱岐は第三紀壱岐層群から成り、やはり玄武岩の溶岩が覆っている。壱岐と対馬の西水道の沖は、その中間に七里ヶ曽根という岩礁があり、その周辺に火成岩の存在が予想される。大体の地質は、壱岐側は対州層群であるが、その間に一部新期堆積層があるため、それを避けようとすると、トンネルはかなり深いところを掘ることになる。

 対馬は大部分が対州層群で、南部に花崗岩の大きな岩体があり、その周辺はホルンフェルス化している。ホルンフェルス化とは岩石が熱作用を受けて変質していることを言う。花崗岩は熱を持っているので、それが接する周辺の地層は熱作用を受ける。ホルンフェルス化した岩石は非常に硬い。対馬の西水道の沖合には海岸に平行して大断層が走り、その西側で岩盤が深く落ち込んでいて、その上に新期堆積層が堆積している。

 この新期堆積層は、200万年以上前の第三紀鮮(群)新世の頃、あるいはもっと古くから現在まで、あたかも降りしきる雪のように海底に堆積を続けてきたものである。まだ続成作用の過程にあり、岩石になりきっていない。したがって、水分を多量に含んでおり、極めて軟弱であると考えられる。

 ここを通過するには、堆積層の中をシールド工法で掘るのか、もしくはその堆積層の下の岩盤を山岳工法で掘削するのか、二通りが考えられる。西水道の最も深いところは水深150m、岩盤の中を通るトンネルならば、その深さは550600mにもなる。この岩盤は、韓国に向かって約4度の仰角で浅くなっていると思われる。

 このような地質概況から施工時に予想される問題点は、次のように要約される。まず九州地区では、花崗岩が風化して砂の塊のようになっているところがあり、地下水を含めば崩れやくなる恐れがある。壱岐水道と対馬東水道の海底には、火成岩が分布していて、そこでは突発的な湧水が起こる可能性がある。

 壱岐および対馬では、水資源が限定されており、生活用水や農業、漁業用水等を地下水に頼っている。そこで、地下水利用に極力影響を与えないような配慮が必要になる。また、対馬西水道海底下の未固結の新期堆積層にどう対処するかと言う課題は、トンネル計画全体に関わる最大の問題とも言える。

(『友情新聞』2013年9月1日号より)

---

 次回は、「七つの案を比較検討」をお届けします。


◆『平和の大道 ―国際ハイウェイ・日韓トンネル―』を書籍でご覧になりたいかたはコチラへ(韓国語版もあります)


★おすすめ関連動画★

ザ・インタビュー 第32回
佐藤博文・国際ハイウェイ財団理事長に聞く その1「地球規模の神文明を創造する壮大なプロジェクト」

U-ONE TVアプリで視聴する


ザ・インタビュー 第33回
佐藤博文・国際ハイウェイ財団理事長に聞く その2「日韓トンネルは、地理と歴史を変える21世紀最大のプロジェクトだ」

U-ONE TVアプリで視聴する


ザ・インタビュー 第34回
佐藤博文・国際ハイウェイ財団理事長に聞く その3「神主義は共生共栄共義主義であり、現実問題を解決する思想」

U-ONE TVアプリで視聴する

---

 U-ONE TVの動画を見るにはU-ONE TVアプリが必要です!
 無料ですので、ぜひダウンロードしてご活用ください。

ダウンロードはコチラから

Android

iOS

ダウンロード方法について

▲画像をタッチすると視聴できます