2023.04.03 17:00
コラム・週刊Blessed Life 259
先端技術の対中輸出規制に向かう日米蘭
新海 一朗
米中の軍事覇権競争が激しさを増しています。米国は軍事に転用される恐れのある先端技術が中国の手に渡るのを規制する方針を明確にし、日本とオランダにも協調を求めています。
米国が2022年10月に導入した半導体の技術や製造装置などに関する対中規制が効果を発揮するためには、日本とオランダの協力がどうしても必要です。
日本とオランダは、半導体製造装置の分野で世界の中で最先端を走る国家だからです。
特に先端半導体は、人工知能(AI)などの高度な技術に不可欠であり、経済安全保障、国家安全保障の観点から各国が技術開発や安定確保を進めている重要品目です。
日米蘭の3カ国の政府は1月にワシントンで協議し、米国の対中規制に足並みをそろえることで合意したことを、すでに欧米メディアは報じていました。
オランダは3月8日に規制案を公表しており、日本の対応が注目されていたところです。
西村康稔経済産業相は3月31日の閣議後、記者会見で先端半導体分野の輸出規制を強化するため外為法の省令を改正すると発表しました。
「日本は半導体製造装置の分野で極めて高い、優れた競争力を有している。軍事転用の防止を目的とした今回の措置で、技術保有国としての国際社会での責任を果たしていきたい」
こう述べて、輸出するときに経産相の許可が必要な半導体製造装置の対象を拡大する方針を明確にしました。
台湾や南西諸島周辺を脅かす中国を念頭に置いているのはもちろんのことです。
西村経産相の発表は、中国が軍事転用可能な先端半導体を製造するのを妨げる狙いがありますが、経産省は改正した省令を5月に公布し、7月に施行する予定です。
日本の輸出規制の対象は、回路パターンを基板に焼き付ける露光装置、洗浄、検査に使う装置など、計23品目が対象となります。
今回の措置は先端半導体の製造装置に絞っています。オランダは露光装置を対象とし、夏前の導入を目指しています。半導体製造装置に携わる日本の大手10社の事業が、影響を受けることになるでしょう。
貿易統計によると、昨年1年間に日本から中国に輸出した半導体製造装置の金額は8200億円余りで、中国は輸出全体のおよそ30%を占める最大の輸出先です。
中国はいいお客として半導体業界では認識されているわけですが、西村経産相の記者会見を受け、早速、中国外務省は、「経済や貿易、それに科学技術の問題を政治化したり、道具や武器のように利用したりしてサプライチェーンの安定を人為的に破壊する行為は他人を傷つけ、自らも傷つけるだけだ」と述べ、日本の対応を非難しました。
中国の反発は仕方ないとしても、日米が協調して中国が引き起こす台湾や日本への軍事的危機に防備することは、国防の常識からすれば当然のことです。
今回の措置は軍事技術への転用を許さないという一言に尽きます。
先端半導体は、最新のミサイルや戦闘機といったハイテク兵器の他、自動運転やメタバースなど次世代の産業に欠かせない戦略物資と位置付けられるからです。
ハイテク分野での米中の覇権争いが激化する中、米国が、半導体の材料に回路を焼き付ける「露光装置」などの製造装置で高いシェアを持つ日本やオランダに協力を求めたことは、極めて適切な要請であったと見なければなりません。