平和の大道 24
本格的出発を意味する調査斜坑

 皆さんは、『平和の大道』という書籍をご存じでしょうか。著者は、一般財団法人国際ハイウェイ財団の理事長、佐藤博文氏です。
 同書は、国際ハイウェイ財団が推進する「国際ハイウェイ・日韓トンネル」プロジェクトの意義や背景などについて総合的に理解することのできる貴重な一冊です。
 Blessed Lifeではその一部を抜粋して紹介してまいります。ぜひお楽しみに!

佐藤 博文・著

(『平和の大道-国際ハイウェイ・日韓トンネル-』より)

 今まで23回にわたり、国際ハイウェイ・日韓トンネルに関して、平和の哲学、世界平和や韓半島の南北統一との関係、世界の高規格道路の歴史、日韓トンネル建設の現状と課題、対馬の地理的歴史・文化的意義等を、哲学的、歴史的、文化的な観点も入れて総合的に論じてきたが、今回はこれらの総括的な意味を込めて、「国際ハイウェイ財団の今後の活動と巨大プロジェクトの実現方法」について論じることにし、一区切りつけることにする。

 今回からは、国際ハイウェイ・日韓トンネルについての各論に入る。まず日韓トンネルの「技術」的な面(土木、建設、機械、地質等)について、書籍『国際ハイウェイプロジェクト』(梶栗玄太郎著、光言社刊)に基づいて論じることにする。というのは、技術面の基礎的な知識がなければ、日韓トンネルというビッグプロジェクトについて深く理解することが難しいからである。

対馬における「調査斜坑」掘削の意義

 当財団は、去年(2012年)から新たな工事の拠点を佐賀県唐津市の調査斜坑基地から長崎県対馬市の阿連調査斜坑基地に移すようになった。いよいよ対馬から「日韓トンネル調査斜坑」掘削工事を始めるためである。

 厳密に言えば、国境を越える国際海底トンネルは、日本から見れば日韓の国境の島、対馬から始まる。唐津・壱岐、壱岐・対馬間の海底トンネルは日本の国内トンネルである。その調査斜坑を対馬から始めることは、日韓トンネルの本格的出発を意味する。

 現在対馬には、当財団所有の土地約100万㎡があり、下対馬西側の朝鮮海峡に面した対馬市厳原町阿連地区には、約80万㎡の用地がある。その中の斜坑建設基地に至る2kmの搬入路が去年完成し、さらに、斜坑口周辺の土地15000㎡を整地し、その場所で同年82日に地鎮祭を遂行した。

 そして、今年(2013年)から具体的に斜坑建設工事を始める予定である。斜坑は、勾配4分の1の傾斜で1300mまで斜め下に掘って、次にそこからほぼ水平に掘っていく。その水平坑を掘り進みながら水平ボーリングをして、海峡の海底の未固結の岩石を斜坑から直接採取して地層を調査する。

 対馬西海岸には、海岸のすぐ近くからほぼ垂直に500m海底方向に向かう断層がある。断層といっても地震でできたものではない。陸上部の対馬は硬い岩石からなるが、対馬島の西側海面下は未固結層の堆積層から成っている。この堆積層は海底下、約500mにわたって韓半島から流出してきた土砂が堆積してできた、岩石化していない柔らかい未固結地層である。トンネルはこの中を通過するのである。

 20数年前、日韓トンネル建設事業団が海底から「ボーリングコア」というサンプルを採取してきたが、未固結であるため、海上の調査船まで引き上げる時、水中を通過する際にコアの一部が流出し、正確なサンプルの採取が上手くいかなかった経緯がある。実際にトンネル工事をするためには、未固結層の詳細な調査が不可欠である。そのためにも陸地から調査斜坑を掘り、水平ボーリングによる未固結層コアのサンプルの直接の採取が必要となる。海底トンネルのスタートは海底の岩石採取から始まるのである。

超巨大プロジェクトの実現方法

 一般に、最先端の高度な技術、膨大な費用、長期にわたる期間等が必要な超巨大プロジェクトでは、①国家プロジェクトとして税金の投入によって実現する方法(パナマ運河、新幹線)、②世界的なファンドにより実現する方法、③民間(会社等)の組織と資金によって実現する方法(英仏海峡トンネル、スエズ運河)―これらの三つの方法が常識的なやり方として考えられる。

 しかし、日韓トンネルについて言えば、現実には高度な技術と長い期間が必要で、短・中期の採算性に難があり、完成には約10兆円ともなる膨大な金額がかかる超ビッグプロジェクトということもあり、今すぐには国も民間も簡単には動かない。このことを考えれば、常識では不可能と思える中にあっても、誰かが、またはある団体が、このプロジェクト推進の主体となって、未来の成功への明確な道筋を示さなければならない。

 「大敵は分断せよ」という兵法の定石に従い、大きな課題であればある程細分化し、複雑な課題であればある程単純化して考え、可能なところに焦点を絞り、模範となるモデルを作り、それを提示しながら多くの人々の理解と賛同を得つつ、一歩ずつ前進していく以外に成功する道はない。

 その道が何かと言えば、国際ハイウェイ・日韓トンネルの完成形全体を代表する「象徴物」、「完成モデル」としての「対馬調査斜坑建設」である。実は海底トンネル工事においての核心部分は本坑ではなく、調査斜坑、先進導坑である。海底トンネル工事は掘ってみなければ何が起こるか分からない世界である。湧水事故が起こるのも、大抵は調査斜坑や先進導坑の工事中である。それ故、この対馬調査斜坑建設工事こそ、国際ハイウェイ・日韓トンネル実現の「天王山」であるとも言うことができる。「対馬調査斜坑」の成功から日韓トンネル実現の実質的な道が開けるのである。

(『友情新聞』2013年6月1日号より)

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 次回は、「トンネルのための地質調査」をお届けします。


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