2023.03.07 12:00
平和の大道 23
東アジアに通じる古代対馬
皆さんは、『平和の大道』という書籍をご存じでしょうか。著者は、一般財団法人国際ハイウェイ財団の理事長、佐藤博文氏です。
同書は、国際ハイウェイ財団が推進する「国際ハイウェイ・日韓トンネル」プロジェクトの意義や背景などについて総合的に理解することのできる貴重な一冊です。
Blessed Lifeではその一部を抜粋して紹介してまいります。ぜひお楽しみに!
佐藤 博文・著
対馬には海神神社や和多都美神社等、古神道の原型を残す多くの神社があり、海幸・山幸等の神話も数多くある。一般的に日本列島固有のものと思われている日本の神道であるが、その成立には、大陸と文化的に密接なつながりがある対馬が深く関係しているのである。筆者も対馬に来るたびに、このことを実感する。今回は対馬と日本神道との関係について探ってみよう。
日本神道の源流が対馬に
作家の司馬遼太郎は『街道をゆく(13)壱岐対馬の道』(司馬遼太郎著、朝日文庫)の186〜189ページで次のように言っている。
対馬の道を行きつつ右のように考えると、日本神道が決して日本列島固有のものでなかったことがわかる。骨卜(こつぼく)をやっていた遊牧民たちが、草原で羊を追いつつ信仰していたのは「天」であった。…天という中国語も草原民族たちのテングリ(天)から来たのではないかという説もある。
モンゴル語では今でも天はテングリである。彼らははるか後世、ジンギス汗時代になっても、汗自身が高所に登り天を祭った。さらに、17世紀になって中国に征服王朝を作った満州ツングースの清も、皇帝自らがテングリを祭るために北京に天壇を造営した。彼らは津田左右吉氏の言う「祭天の古俗」を持ち続けていたのである。
殷人が夷狄臭いのは、王自らが天を祭り、天の意思を知るために王自らが神主の長となって亀卜(きぼく)を行ったということである。以後、天というのは漢民族によって哲学的に大いに深められていくが、宗教的信仰としては周辺の諸民族によって維持された。
この北方アジアの思想は古代、朝鮮半島にまで南下しており、部族の長達が骨卜をして天の意思を聞いていたに違いない。つまり、骨卜と天への信仰は一つのセットになっていた。くどいようだが、天という意識なしに骨卜は成立し得ない。
縄文時代、多分に南方的な言語と信仰を持っていた日本列島居住民の中に対馬・壱岐を北方から串刺しにしてやってくるのが、この天の思想である。
日本の古神道に天つ神があらわれるのは上記の要素を除いては考えられない。
天皇家につながる対馬の土着神
古代対馬に、天の思想と骨トが上陸すると、天はテンともテングリともならずに、アマ、アメという在来の言葉になってしまう。
同時に当時の対馬の卜部達は骨卜に付随して伝わった天つ神の思想と神話を保持していた。天つ神は日本の国土に土着した国つ神とは異なり、観念性の強い存在と言っていい。「高天原」を祖地とするこの一郡の特異な神々は、「古事記」、「日本書紀」によって天孫降臨の直系という天皇家の祖神群として独占されているのである。
ところが日本中で対馬だけが異例で、天つ神達が土着神として島内にいくらでもゴロゴロと祀られているというのはどういうことであろうか。天つ神を古神道に持ち込んだのは対馬が先か、記紀の天皇家が先なのかよく分からない。
他にも、古事記に出てくる高天原の神々が多く対馬の山河に鎮まっている。このことは、対馬卜部達が対馬の山で祀っていた「天」を象徴する神々を天皇家が亀卜の祭祀を主催するという北方アジア的立場上、祖神として吸い上げたのか、それとも江上波夫氏が言うように、古代天皇家が騎馬民族の首長として北方からその祭天の習俗を持ちつつ、対馬を経て南下し、本土に入ったということの後付けとして上記のようになるのか、いずれともよく分からない。
ただ古代の天は、空にも海にも国々の領域のある20世紀よりもはるかに広かったに違いない。対馬の天がはるかに北方アジアの蒼穹につながっていたことだけは確かなようである。
以上が、司馬遼太郎氏の日本神道についての見解である。
北東アジアの宗教的風俗に根ざす日本神道
筆者もこの見解に賛同する。日本の神道は、一般的に日本独自のものであるかのように考えられているようだが、対馬に来てみると、どうもそうではないようだ。実は、日本の神道は、古代から東アジアにおいて、国家の首長が自ら天を祀るという東アジアの宗教的、歴史的な伝統に根ざしたものであることが、対馬に来てみると実感する。
このことは、神道と深く結びついた日本の文化が、そもそも、古代から東アジアとつながった国際的なものであったということの証明ともなり、このような伝統を持つ宗教としての神道を、日本人として誇りに思うべきである。
日韓トンネル・国際ハイウェイが完成したと仮定して、この地域を自由に往来するようになれば、益々このことを実感するようになる。また、東アジア一帯にこのような古代からの宗教的、文化的な共通基盤があることから、日韓トンネル・国際ハイウェイ実現の可能性に大きな希望を与えることになるだろう。
(『友情新聞』2013年5月1日号より)
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次回は、「本格的出発を意味する調査斜坑」をお届けします。
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