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「性解放理論」を超えて(74)

ネオ・マルクス主義フェミニズム

 「統一思想」すなわち「神主義」「頭翼思想」によって生きるのか、神の言(ことば)を否定する思想を選択するのか…。
 「『性解放理論』を超えて」を毎週月曜日(予定)にお届けします。

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大谷明史・著

(光言社・刊『「性解放理論」を超えて』より)

七 日本の性解放理論への批判
(三)ネオ・マルクス主義フェミニズム

(1)ネオ・マルクス主義フェミニズムの主張
 東京大学名誉教授で社会学者の上野千鶴子によれば、ネオ・マルクス主義フェミニズムは、階級支配一元説(マルクス主義)も性支配一元説(フェミニズム)も取りません。社会主義婦人解放論(社会主義革命を最重要視)とラジカル・フェミニズム(性革命を最重要視)間の、統合もしくは止揚として登場したものです(※10)。すなわち、マルクス主義に対する批判を通過したフェミニズムであると言うのです。

 すなわち、「彼女たちは、まず第一にフェミニストであり、フェミニズムの目的のためになら、マルクス理論の利用をためらわず、必要ならその改訂も辞さない人々である(※11)」と言います。彼女たちは、第一義的にフェミニストであり、第二義的にマルキストです。その代表的人物が上野です。彼女はフェミニズムの立場から次のように述べています。

家族は権力関係
 [家族の中で]、人々は再生産をめぐる権利・義務関係に入り、たんなる個人ではなく、夫/妻、父/母、親/子、息子/娘になる。この役割は、規範と権威を性と世代とによって不均等に配分した権力関係であり、フェミニストはこれを「家父長制 patriarchy」と呼ぶ(※12)。

私の価値は私が決める
 女についてはもっとあからさまに、男に認められることが女の価値だといわれてきました。それに対してフェミニズムは、「男に選ばれようと選ばれまいと、私は私」という思想の装置を提供してきた。「私の価値は私が決める。男に選ばれることによって、私の価値は決まらない。」フェミニズムは、そのように女の自己解放のために思想を鍛えてきたわけです(※13)。

 上野はさらに、マルクス主義にちなんで、「万国の労働者よ、団結せよ」をもじって、「万国の家事労働者よ、団結せよ」と叫んでいます。

 「家事労働」という不払い労働こそが、階級形成のための物質的基盤である。共産党宣言をもじれば「万国の家事労働者よ、団結せよ」というのが、唯物論的フェミニストの戦略になろう(※14)。

 上野はまた、「おひとりさま」、「ようこそ、シングルライフへ」と叫んで、家族をつくらない個人生活を理想化しています。正に個人主義の極致です。

2)ネオ・マルクス主義フェミニズムの理論的背景

①マルクス主義の搾取理論
 上野は、マルクス主義の「資本家による労働者の搾取」をフェミニズムの立場から「男性による女性の搾取」と読み替えたのです。

②クィア理論
 上野は、クィア理論のバトラーがジェンダーを攪乱(かくらん)することによって、本質主義を決定的に払拭したと評価しました。そしてセジウィクが提起した「ホモソーシャル」(homosocial, 男性の連帯による女性への支配)の概念は、目からウロコのような大きな転換をもたらしたと言います(※15)。

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10 上野千鶴子『家父長制と資本制』岩波書店、20091213
11 同上(13
12 同上(30
13 上野千鶴子「不安なオトコたちの奇妙な〈連帯〉」『バックラッシュ!』双風社、2006432
14 上野千鶴子『家父長制と資本制』岩波書店、200984
15 『上野千鶴子対談集・ラディカルに語れば』平凡社(166

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 次回は、「純潔教育の否定」をお届けします。


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