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神の沈黙と救い 13

 アプリで読む光言社書籍シリーズとして「神の沈黙と救い~なぜ人間の苦悩を放置するのか」を毎週日曜日配信(予定)でお届けします。
 神はなぜ人間の苦悩を放置するのか、神はなぜ沈黙するのか。今だからこそ、先人たちが問い続けた歴史的課題に向き合う時かもしれません。(一部、編集部が加筆・修正)

野村 健二・著

(光言社・刊『神の沈黙と救い』より)

第二章 神の沈黙を考える四つの立場
三 情神論

情神論では説明できない「神の勝利」

 情神論の問題点は、旧約聖書の神を無視、もしくは単なる神話として片付けざるを得なくなるということ(その見方に対して数多くの反証があるにもかかわらず)。また、キリスト教が今述べたような多くの苦難と絶望的状況にもかかわらず、それを乗り越えた後では著しく繁栄し、現在は信者数においても世界一の大宗教となっていることを説明しにくいということである。

 現にピルグリム父祖たちが、プリマスに着いて迎えた最初の冬に半数が飢餓や病気で死ぬという逆境に立ちながら、この困難を乗り越えて最初の収穫に感謝の祈りをささげた信仰の土台の上にアメリカ合衆国が建国され、世界で最も影響力の強い富裕で強大な国となった。これは明らかに神の祝福を意味するものであり、決して無力な神ではないことを示すものではなかろうか。

 また、初期のクリスチャンたちがほとんど唯一の希望としていたキリストの再臨もなく、頼りにしていた使徒や幹部はほとんどみな横死してしまった。ということになれば、その弟子たちの信仰がみな失われてしまったとしても不思議ではないが、その信仰は根強く生き残り、313年にはミラノの寛容令でローマ帝国で公認され、380年には公同信仰令でローマの国教にまでなった。今日においては、人口調査や世論調査などでキリスト教徒を公言する者(教会に所属しない者も含む)は1988年現在、約17億人(世界人口の32.9パーセント)に達している。ちなみに、イスラム教徒は92千万(17.8パーセント)、ヒンズー教徒は69千万(13.2パーセント)、仏教徒は31千万(6.0パーセント)である(『ブリタニカ国際年鑑』1990年版より)。

 キリスト教においては、外面的には神は沈黙しっぱなしであったのに、今や世界人口の3分の1近くを占める最大の宗教となっている。こうした事実は情神論ではとうてい説明不可能である。

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 次回は、「人間の自由を保持するため」をお届けします。