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愛の勝利者ヤコブ 18

 アプリで読む光言社書籍シリーズとして「愛の勝利者ヤコブ」を毎週月曜日配信(予定)でお届けします。
 どの聖書物語作者も解明し得なかったヤコブの生涯が、著者の豊かな聖書知識と想像力で、現代にも通じる人生の勝利パターンとしてリアルに再現されました。(一部、編集部が加筆・修正)

野村 健二・著

(光言社・刊『愛の勝利者ヤコブ-神の祝福と約束の成就-』より)

イサクの嫁選び①

 さて、サラは127歳まで生きながらえ、カナンの地、誓いの井戸──ベエルシバよりモリヤの山に近い、遠くマムレのテレビンの木を仰ぐヘブロンの地で死んだ。

 そこはまだアブラハムの家の土地にはなっていなかったので、まわりのヘテの人々に妻を葬りたいから土地を少し分けてもらえないかと、アブラハムは頼んだ。ヘテ人たちは「あなたは神のような主君です。どこでも一番良い所に葬ってあげてください。だれも反対する者はいないでしょう」と口々に答えた。アブラハムが彼らからどれほど大きな信望を得ていたかがこれで分かる。

 そこでアブラハムはゾハルの子エフロンの畑の端にあるマクペラの洞穴を400シケル(約450キロの銀)で買い、妻を手厚く葬った。エフロンはそのまわりの畑や周囲の立ち木もみなアブラハムに譲った。こうしてわずかな土地ではあったが、神がアブラハムに約束されたカナンの地(創世記178)の一部が、彼の所有地となるのである。

 妻に死なれてにわかに老いを感じるようになったアブラハムは、イサクの嫁を早く見つけなければならないとしきりに思うようになった。神はこのイサクから神のご用を務める選ばれた民を起こそうと5度(創世記12131515131617121221618)もアブラハムに誓われた。したがってその嫁も、神の選民にふさわしい特別の人でなければならなかった。

 そこでアブラハムは所有のすべての管理をまかせていたしもべ、エリエゼル(*4)を呼び寄せ、

 「あなたの手をわたしのももの下にいれ、天地の神、ヤハウェに誓いなさい。わたしも年老いて遠くまで出かけることはできない。ついては、お前にわたしの身代わりとして、イサクの嫁選びをしてもらいたいが、自然や偶像を神として拝んでいるこのまわりのカナン人を嫁に選んではならない。ご苦労だが、わたしの国にまで行き、親族のうちから嫁を選んできて欲しい」(創世記2424参照)

 と命じた。手をももの下に入れるのは、イスラエル民族の男子が、神からの契約を受け継ぐ印として割礼を受けなければならない(創世記1711)と、神から命ぜられたのと同じ意味を持つ独特の儀式である。

 「仰せのとおりにいたします。しかし、その女がこの地に来たくないと言った場合にはどういたしましょう。ご子息をあちらにお連れしましょうか」

 「それはならん。神が父の住んでいたハランからわたしを導き出され、このカナンの地を与えると言われたのだから。必ず神が天使を遣わしてお前を助けてくださるだろう。しかし、それでもその女がこちらに来たくないと言い張るのだったら仕方がない。その場合のことまでは誓いに含めないでよい」

 そこでエリエゼルはアブラハムに言われたとおりにすると神に誓い、10頭のらくだと数々のすばらしい贈り物をたずさえて従者と共に、アブラハムの弟ナホルのいるメソポタミアの都ハランの町はずれまではるばる出かけていった。

 エリエゼルは町に着くと、らくだを町の外の井戸のそばに伏せて休ませた。折りしも夕暮れで、町の女たちがこの井戸に水をくみに来る時刻であった。エリエゼルは深々と神に祈った。

 「どうかきょう、わたしにしあわせを授け、主人アブラハムに恵みを施してくださいますように。水をくみに来た娘たちに向かって水がめを傾けて、わたしに飲ませてくださいと頼みますから、その時、わたしとらくだに飲ませてくれる娘があったら、その娘こそあなたの意中のかただと信じることにいたします」

 と、神自らが選んでくださることを願った。

 するとまだそう言い終わらないうちに、一人の美しい娘が水がめを肩に載せて井戸のもとに来て、エリエゼルの求めに快くこたえて、

 「わが主よ、お飲みください」

 と急いで彼に水を与えたばかりでなく、すべてのらくだが水を飲み終わるまで井戸から水をくみ続けた。

 「あなたは一体どなたなのです。わたしたちは異国の者でこの町に着いたばかりですが、お宿を貸していただけましょうか」

 老僕は彼女に重さ半シケルの金の鼻輪一つと、10シケルの金の腕輪を二つ取って、そう話しかけた。娘はにっこりと微笑んで、

 「わたしはアブラハムの兄弟ナホルの妻ミルカの子ベトエルの娘です」

 と答えた。

 「ご遠慮なく家にお立ち寄りください。わらも飼い葉もたくさんありますし、お泊めする場所も十分にございます」

 エリエゼルはその奇遇に驚くとともに、この娘こそ神の選ばれたかただと確信し、神に心からなる感謝の祈りをささげた。


*
注:
4)フーセンエッガー(『聖書物語』ブックマン社)、犬養道子(前掲書)は、その総管理人を、前にアブラハムが自分の家のあと継ぎにしようとしていた「ダマスコのエリエゼル」(創世記152)とみなしてそう明記しており、フリッチ(『創世記』〈聖書講解全書2〉日本基督教団出版局)、小出正吾(『旧約聖書物語〈全〉』審美社)、山室軍平(『民衆の聖書1』教文館)もそのように推定しているのでそれらの説に従った。ただし、聖書にはそう明示されてはいない。

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 次回は、「イサクの嫁選び②」をお届けします。