2023.01.01 17:00
第5部 近世に活躍した宗教人
⑩ルドルフ・ブルトマン
岡野 献一
『FAXニュース』で連載した「キリスト教信仰偉人伝」を毎週日曜日配信(予定)でお届けします。(一部、編集部が加筆・修正)
「救いのためにみ言に向き合おう」
20世紀の神学界をリードしたルドルフ・ブルトマン(1884-1976)。彼は、マタイ伝、マルコ伝、ルカ伝の共観福音書の成立過程を研究した『共観福音書伝承史』を著し、さらに、古代の世界観に基づく神話的要素から、新約聖書を解放し現代人にも福音が受容できるようにすべきだとして「非神話化」を主張。この主張は賛否両論にわたる大きな波紋を神学界に呼び起こしました。
働きかけるキリストに触れることが重要
さて、彼の父はルター派教会の牧師、祖父は宣教師であり、また、母方の家系も牧師という恵まれたキリスト教の宗教的背景の中で生まれ育ちました。このような宗教的背景があったためか、彼は生涯を通じて主義主張の違う人物たちとも交流を深めることができるという、極めて謙虚な人徳をもっていたと言われます。
彼はテュービンゲン大学、ベルリン大学、マールブルク大学などで、当時の超一流の神学者たちの下で学んで幅広い学識を身につけていきます。
特に、創世記を文体の相違によって分類し、その成立過程を解明した様式史研究のグンケル、また、キリスト教を特別な啓示宗教と見ることをやめ、その成立過程を周辺の文化や諸宗教との関連から解明した宗教史学派のヨハネス・ヴァイス、そして、単なる史実に基づいた史的イエスからではなく、福音の証言を通して、今現在においても人間に働きかける「歴史的キリスト」に触れ合うことが重要だと説くヘルマンから影響を受けます。
1921年、彼はマールブルク大学の教授に就任して、福音書の様式史研究の分野で大反響を呼ぶ『共観福音書伝承史』を出版します。その2年後、哲学者ハイデッガー(1889~1976)がマールブルク大学に転任してきます。
ブルトマンは、このハイデッガーの哲学から大きな影響を受けます。
この出会いのうえで、彼は26年に、名声をさらに高めた『イエス』を出版します。
その中で、彼は様式史研究に基づいて、福音書から「私たちはイエスの生涯と人となりについてほとんど何も知ることができない」と結論付ける一方、彼は「イエスが何を意図しているか」に注視し、そのイエスの言葉を通してイエスと実存的出会いを果たすべきことを訴えます。つまり史的イエスの客観的観察者としてではなく、イエスの言葉と出合う時、その言葉が「おまえは自分をどのような実存として把握するのか」と迫ってきて、イエスとの歴史的出会いに導かれるというのです。
やがて彼は、第2次世界大戦中の41年、ヨハネ伝の注解書『ヨハネ福音書』を出版。その成果として「非神話化」を提唱するのです。
統一原理は福音の本質を伝える
ブルトマンは次のように主張します。
――新約聖書の世界観は「神話的世界観」から成っている。世界は天界、大地、下界という3階層から成っていると考え、天界には神と天使がおり、下界は陰府(よみ)という苦悩の世界である。やがてキリストが天の雲に乗って再臨する、という神話的世界観だ。このような世界観を、現代人はそのまま受容できない。
故に、福音を伝えるには、キリスト教宣教を「非神話化」しなければならない――
彼は、神話的な世界観の受容を現代人に要求することは「知性の犠牲」を強いることにほかならないと言います。
パウロをはじめ新約聖書が期待するようなかたちで再臨がすぐには起こらず、その後、長い歴史が流れてきたという事実によって、もはや古代の神話論的な世界観や終末論などは終結している、というのです。
「非神話化」の言葉の響きからブルトマンは多くの誤解を受けてきましたが、彼の意図したものは、キリストの救いにあずかるために「知性の犠牲」をなくし、イエスの言葉と真摯に向き合えるように導くためでした。
「統一原理」が解明した終末論、復活論、キリスト論、再臨論などは、現代人に「知性の犠牲」を強いることなく福音の本質を伝えるという意味において、まさにブルトマンの「非神話化」を具現化したものだと言えます。
再臨主が世界路程を出発する前、「統一原理」を受容しやすい土壌をキリスト教に整えさせよう、との配慮から、神はブルトマンを召命したと言えます。
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次回は、「ディートリッヒ・ボンヘッファー」をお届けします。